第49話 意識

 翌朝。


「おっはよー、ゆうちゃん!」


「お……おう」


「……なんか冷たくない?」


「別に……」



 やばい、どう接すればいいのか分からん!!

 んー? と覗き込んでくる松永を直視しないようにするだけで精一杯だわ!

 初恋……ではないけど。初恋はうっすら記憶の中にいる夢でしか会えない女の子だ。


 結構長いこと想い続けてたのに……こうも簡単に変わるのか。



「ゆうちゃん? 顔色悪いよ?」


「!」



 大丈夫? と髪を耳にかけながら聞いてくる松永。

 昨日まではこんなに心臓うるさくなかったのに……!



「だ、大丈夫だから!」


「ほんと?」


「マジだよ大マジ! ほら行くぞ!」


 

 ああ〜もう、誰か助けてくれぇ!


―――――


 今日は家庭科室のミシンでハチマキを作る日。

 リレーの班で作るので松永と一緒に作ることになる。やばい緊張してきた。

 いや、まだ森さんがいるし大野もいるから大丈夫だ!


 という俺の期待は儚く散っていった。



「森さん、ここってどうするんだ?」


「そこはね、ちょっと難しいんだけど……」


「おわああっ、ゆうちゃん! 真っ直ぐ縫えんのじゃけどどうしよう!」


「A型のくせに出来ないのかよ!」



 森さんと大野は知らない間にすごい仲良くなってるし、松永はめっちゃ助け求めてくるし。

 てか森&大野はまじで何があったんだ!? そんなに仲良かったっけ!?



「A型っていうなぁ、他の人や周りの環境がきれいになっとらんのが気になるだけで、自分できれいにするこたぁ無理なんじゃ!」


「なんだよその謎理論……」



 俺はため息をつくと、松永の隣に座って(今までは一つ席を空けていた)縫う途中の松永の手に自分の手を重ねる。



「ほら、こうやって真っ直ぐに――ってどうした?」


「ちょ、ゆうちゃん、手……!」


「あ」



 しまったぁぁぁあああ!! 絶対きもいとか思われたじゃん今!

 てかなんでこういうことは恥じらい無く出来るんだ俺!? 気づいたらやってたわ!



「ご、ごめんっ!」



 慌ててパッと手を離すと、松永がすぐに手を掴んで来た。思わず体がビクンと跳ねる。

 松永は拗ねたような顔で上目遣いをし、ずるい一言を言ってきた。



「……やだ。一緒にやって」


「……は、はい……」



 やべ、鼻血出そう。

 あとめっちゃ手柔らかくてすべすb――俺は変態じゃないっ!!


 ハチマキは結局不格好になってしまったけど、松永は



「ありがとう! 大事にするね!」



 と笑ってくれた。かわいい。

 もう素直にかわいいって言えるわ。


―――――


 その日の夜。

 俺が携帯を開いて待ち受けを見ていると、陽茉梨が後ろから覗いてきた。



「へえ……」


「いやっ、ちが、これは違う!」


「別に私まだ何も言ってないけど? まあ、おにいが松永さんのこと好きなんだなってことは分かった」


「んなわけないだろっ、これは松永に強制的にやらされたんだよっ!」


「はいはい」



 どうしよう絶対信じてない。嘘だから信じるも何もないけど。

 さて、どうする――



「……明日、バイトだから。忘れないでね」


「え、あ、お、おう……」

 


 俺がさらなる陽茉梨の追求に身構えていると、意外にあっさりと会話は終わった。

 拍子抜けしている俺を置いて、陽茉梨はさっさと晩御飯の準備を始める。その顔は心なしか強張っているように見えた。


♡♡♡♡♡


「おにい、松永さんのことが好きになっちゃったみたい……頑張って。……うん、うん……大丈夫、私はいつでも味方だから……あったりまえじゃん! 親友でしょ? ……じゃあ、また明日。バイト頑張って」



 ピッ、と電話を切って、ため息をつく。



「私、どっちを応援したらいいの……?」

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