第二章 体育祭編

第39話 種目決め

 ついにこの日がやってきてしまった……。

 一歩、一歩と足を進めるごとに新しく鉛がついていくような感覚。なぜこんなに落ちこんでいるのかというと――



「おはよ、ゆうちゃん! 今日体育祭の種目決めじゃのぉ!」


「現実を突きつけないでくれ……」



 そう。今日は体育祭の種目決め。

 ――いやいや、体育祭当日ならまだしも、種目決めならいいじゃん。

 そう思ったやつ、静かに挙手。


 ちげーんだよ!


 話し合いだぞ話し合い! 陰キャにとってこれがどれだけ重大なミッションか分かってんのか!?

 話に入らずみんなが決めたやつに従うのに、なんで発表しなかったら「飛鷹は、どう思う?」って振ってくんだよ担任! 返事に困って微妙な雰囲気になるだろうがっ! 生徒全員の意見を聞きたいならなあ! 体育祭自体中止にすることが陰キャ代表の俺の意見だ!


 そんな魂の叫びをぐっとこらえ、代わりに口からこぼれ落ちたのは本日何度目か分からない溜息である。



「どうしたの、ゆうちゃん。なんか具合悪そうじゃけど」


「ああ、ちょっとな」



 つい先日、なんだか松永の家は複雑っぽいと分かったので、登下校は一緒にすることにした。視線が痛いのは慣れたことである。

 能天気そうなこいつにも色々と思うことがあるのかもしれない、と達観したことを言えるのは今絶賛現実逃避中だからである。


 金曜日だと言うのに、月曜日みたいに憂鬱な気分で学校へ向かうのだった。


―――――


「えー……じゃあまず『玉入れ』でいいだろ」


「小学生かてめえ、『騎馬戦』一択だろ!」


「あたしは、『借り物競走』かなぁ! 『好きな人』とか書いちゃったりしてさぁ! エモくない?」


「それ言ったら二人三脚も――」



 様々な意見が飛び交う中、俺は特に意見を述べることもなく聞き流していた。

 ふわあ……とあくびをしかけた時、松永が話しかけてきた。気配を消している陰キャの俺に声をかけるな。



「ゆうちゃんは、何がええ思う?」


「別になんでも……体育祭とか興味無いし」


「えー、ノリ悪っ」


「理不尽すぎるだろ。十人十色ってやつだよ」



 松永と言い合っていると、森さんの「では、投票で決めます。一番目と二番目に投票が多い種目を採用します」という声が聞こえた。

 選択肢は、


 玉入れ 騎馬戦 借り物競争 二人三脚 大玉ころがし


 え、大玉ころがし……? 玉入れもだけど、小学生……?

 軽く困惑する。

 うーん、ぶっちゃけどれでもいいんだよなぁ……。とりま玉入れと大玉ころがしは却下で。

 どれにも挙げないのは無しですかね……と心のなかで抗議していると、



「借り物競争がいいと思う人ー」



 すると、松永がスッと手を挙げた。俺もなんとなく釣られるようにして手を挙げる。


 結果は、かなりの僅差で一位が騎馬戦、二位が借り物競争だった。


 もともとクラス対抗リレーはすると決まっていたので体育祭はこの3種目に落ち着いた。


―――――


 練習一日目、騎馬戦。

 俺の高校はクラスが偶数だったら紅組、奇数は白組という方法で分けることになっており、俺達三組は白組だ。

 各チームで集まり、先生の話を聞く。


 

「はいでは、騎手をじゃんけんで決めろー勝ったやつが上なー」



 うわー、目立ちたくないし、絶対負けよう。……フラグじゃないからな?



「最初はグー、じゃんけんぽん!」



 ……おいこれ、仕組んだのか? 俺は一瞬そう思った。

 

 グー、チョキ、チョキ、チョキ。

  

 四人でじゃんけんのときは大体最初あいこになるもんだろ。

 なのにこんな綺麗に決まることあるのか?


 そしてそれ以上に、信じがたいことだが――



「俺の一人勝ちかよぉぉぉおおお!!!」



 俺の情けない叫び声が響き渡り、俺はガクリと膝を付きそうになった。

 ――いや、まだだ! まだ俺は諦めない!!

 


「お、俺、バランス感覚ないし、他のやつにゆず――」



 その時。

 夏も近づいてきたというのに周りの気温が下がっていくような気がした。



「おい、飛鷹」



 俺はゴクリと唾を飲み、ギギギギギと後ろを振り向いた。



「……は、萩原はぎわら先生……」



 そこには年がら年中青のジャージ姿の、クールでサバサバした体育教師――萩原千尋ちひろが立っていた。整った顔に黒髪ポニーテールがよく似合っている。

 しかし、怒ると周りがブリザード状態になるので、ほとんどの男子は恐れ慄き、ドMな男子からはものすごい人気である。

 

 今の会話、絶対聞かれてたよな……。終わった。

 俺の予想通り、萩原先生は眼鏡の奥の眼光も鋭く俺に向けて言った。



「こっそり代わってもらおうだなんて許さんぞ?」



 か、肩に置かれた手の力が段々強くなっていく……痛い痛い痛い! あと怖すぎる!

 先生からものすごい圧を感じるんだが……!!



「す……すみませんでした……」



 こうして俺は、騎手になってしまったのである。


△▼△▼


 ということで体育祭編、始まりました!!

 実は霜月、体育祭を書くのが夢でした。最近は騎馬戦や組体操が無くなり、せめて物語の中だけでも――とずっと思っていたからです。


 さてさて、この体育祭編で、一気に物語が進む予感!?

 主要メンバーも全員出てきましたし、総出でがんばりますよ〜!

 これは裏話ですが、萩原先生、荻原おぎわらと間違えられるのが地雷らしいです。


 皆様の体育祭の思い出とかも、コメントで教えて欲しいです。(もしかしたら参考にさせて頂くかも笑)

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