第40話 色々な関門

「おい飛鷹! おまっ……バランス感覚無さすぎだろ!」


「しょうがないだろ! 運動能力皆無なんだよ!」


「全能力頭脳に捧げたってか、ふざけんな」



 第一関門、バランス感覚。



「飛鷹、今のは取れるだろ!」


「いやいや空中でハチマキ取れるわけねえだろ!」


「俺達が下にいて支えてるんだから空中じゃねえし固結び禁止なんだから引っ張ったら取れるだろ!」


「握力17舐めんなくそが」


「握力関係ねえだろ」


「俺の小6の妹22だぞおい」



 第二関門、度胸。

 てか待って? 俺小6の女子に握力負けてんの?



「はぁー……」



 休憩時間。ゴクゴクと水を喉に流し込み、深い溜め息をつく。

 やっぱり俺、騎手向いてないんじゃ……というか向いてないよな。


 ずうん……と落ち込みながら、辺りを見回すと、松永がチームメイトと思われる女子数人と談笑している姿が目に入った。

 俺の視線に気づいたのか、松永はこっちに気づくと周りにバレないようこっそり手を振ってきた。思わず俺も振り返す。



「アオハルだなぁ、お前」


「うわあああ、は、萩原先生!?」



 し、心臓に悪すぎる……! なんでこんなに気配を消すのが上手いんだ! いつの間にか隣に座ってるし!

 先生は俺の様子を意に介することなく、とんでもない質問をぶつけてくる。



「松永と付き合ってんのか?」


「普通は生徒が先生に『恋人いるのー?』って聞くんですよ……」


「お前は珍しい経験をしたということだな」


「ポジティブすぎません……? あと、松永とは付き合ってないです」


「なるほど、両片想いってやつか」


「だからポジティブというかなんというか……俺は好きじゃないし、あっちも多分友達って思ってるんじゃないでしょうか」



 まあ、ちょっとは気になってる……かもしれないことも無いけども……。

 かあっと火照りそうになった顔を、パタパタと仰ぐ。その様子を見て、萩原先生は「へえ?」と面白そうに笑った。

 この先生を論破するのは難しそうだな……と場違いなことを考えるのだった。



「ほ、ほら、そろそろ休憩終わりなんじゃないですか」


「お、ごまかしたな。まあ確かにそろそろ終わりだ」



 あっ、自分で休憩時間終わらせちゃった……。

 先生の口車に乗せられ――



「あ、ちなみに、松永も騎手だぞ」


「えっ」



 ……頑張ろう。

 いや、別に元からそのつもりっていうか、スイッチ入ったら頑張れるっていうk


―――――


 帰宅後。



「なあ陽茉梨」


「なにー?」


「バランスボール買っていい?」


「唐突すぎるしバカなの? 置くとこないじゃん」


「に、兄ちゃんの部屋でいいから」


「は? リビングに置けよ私も乗りたい」


「お前もかよ」



 その後、陽茉梨に事情を説明すると「なるほどね。だったらしょうがないなー」と苦笑され、ムッとした俺は「陽茉梨もノリノリだっただろ」とツッコんだ。


―――――


 練習二日目、リレー。

 今はクラスだけで練習だが、いずれ白組で集まって練習することもあるらしい。

 リレーとか、足を引っ張った記憶しかないんだが……。

 俺がげんなりしていると、くじ引きで同じチームになった大野がバシバシと背中を叩きながら言った。



「元気出せって、裕也!」


「お前は元気すぎるんだよ……」



 ますますげっそりした俺を見て、森さんがクスリと笑った。

 くじ引きでチームが決まった時、俺は騎馬戦のときと全く同じ気持ちを抱いた。


 ……おいこれ、仕組んだのか?


 俺のチームは、大野、森さん、松永。

 まさかのおなじみメンバー大集結である。え? 偏りすぎでは? と困惑する俺と森さんを置いて、練習を始めようとする大野&松永。

 大野はサッカーをやっているだけあって、50メートル走6秒43。俺からしたら軽く人間の域超えてる。

 松永はまあまあで、8秒98。俺は中の下で9秒62。森さんは、10秒33。



「これ……俺と――特に森さん、かなり頑張らないといけないんじゃないか?」


「なーに後ろ向きになってんだよ!」


「大野、お前は前しか向いて無さすぎだ」


「? 何が悪いんだ?」



 だめだこいつ、話が通じねえ。

 するともう一名、話が通じないやつが入ってきた。



「そうじゃゆうちゃん! チームっていうなぁ、それぞれの欠点を補うて成功させるものなんじゃ! じゃけぇ、『こいつのせいで負けた』なんていうなぁあり得んの!」


「地味に俺が足遅いって認めてるよな? それ」


「事実じゃろ?」



 現実が心にぶっ刺さり、俺がくらりとよろめいた時、唯一の常識人が現れた。



「飛鷹くん、頑張りましょう! 私も頑張りますから!」


「そ、そうだな……!」


「なんなら私のほうが運動音痴なわけです、安心して下さい!」


「あ、う、うん……」



 励まし方下手なのかな? と思った。


△▼△▼


 私のときは50メートル走、二人で並んで走って計るという方法でした。運動音痴な私は(勉強も苦手)もう一人の運動音痴の子とペアを組んで走りました。

 すると、その子が思っていたよりも遅かったので私はわざと遅く走ってその子が早いみたいな感じに仕立て上げた思い出があります。正確なタイムを計りたい。(多分遅い)


 ちなみに、この物語では男子騎馬戦の後に女子騎馬戦が行われます。

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