第34話 二人からのゴリ押しで

「ねえねえ、大野くん! サッカーはいつからやってるの?」


「小1からかな」


「てかさ、広島からってことはもしかして松永さんと知り合い?」


「おう! 幼馴染だぜ!」


「「「えーっ、すごーい!」」」



 う、うるせぇ……。クラスの女子が大野の周りに群がっているが、いつもより声高すぎだろ。電話出るときの母さんかよ。俺は聞いたこと無いけど。

 松永の名前が出た瞬間、女子たちが松永を警戒したような気がしたが……。気のせいか。気のせいだよな。気のせいだと信じたい。


 そこで、一人の女子――犬飼さんが思い切った声で訊いた。



「大野くん、彼女いるの?」


(きたああああ!!)


(すごい、勇者だよ、犬飼さん!)


(ナイス。ナイスすぎる。大野くん親衛隊隊長に相応しいわ)


(頑張ったね……!)



 ……何故か女子たちの心の声が聞こえる。なんでだろう。俺、心の声が聞こえるようになったのか?

 つか今日転校してきたのにもう親衛隊作ったの!? 女子こえぇ……。

 俺が一人でガクガク震えていると、松永が苦笑いで「調子乗っとる……」と呟いた。

 全くそうだ、と俺が頷いていると大野が言った。



「いや、好きな人はいるけど彼女はいないぜ」


「へ、へぇ〜……」


「そっかぁ……」



 嬉しさと悲しさ、そして大野の好きな人へ対する嫉妬など、色々な感情が相まった複雑な表情を見せる女子たち。

 そして犬飼さんがさっと目配せしたかと思うと、蜘蛛の子を散らすように去っていったのだった。

 ようやく後ろが静かになったところで、俺はずっと気になっていたことを大野に聞いてみた。


 ……と言いたいところだが、陰キャの俺に自分から話しかけるなんて無理だ! ましてや学校で!


 俺が頭を悩ませていると、松永が俺の心を察知したのかと思うほどピンポイントで大野に俺が訊きたかったことを聞いてくれた。



「そういえば、広島で入ってたサッカーチームはどうしたの? 確か、広島のクラブユースに加入できるかもって言ってなかったっけ?」


「ああ、高校のチームはやっぱり物足りなかったから。実は東京の強豪チームから誘われてこの間セレクションを受けたんだ。それが合格したからこれからはこっちのチームに所属する」



 強豪チームから誘われるなんて、実力は確かなようだ。

 すると、それまで松永の方を向いていた大野が俺の方にも視線を向けて、ニッと笑った。



「だからこれからはこっちに住むし、高校も一緒だから……よろしくな、ふたりとも」


「お、おう」


「うん!」


 

 俺は少し戸惑いながら、松永は元気よく、返事をするのだった。

 二人、仲いいなぁ……。

 なんだかもやっとした気持ちが、心に生まれる。


 いや俺は少女漫画のヒロインかっつーの!!



「ていうか、裕也」


「はいっ、ひゃ、え、何!?」


「いや焦りじゃろ」



 内心かなり動揺していた時に話しかけられたら、そりゃあびっくりして焦るに決まってるだろ。

 すると、大野が真顔で言った。



「お前、そんな顔してたんだな」


「は、はい?」



 あまりにも予想外な発言に、一瞬思考が止まる。

 


「待って、今までどんな風に見えてたんだ?」


「うーん、わからん」


「は……?」



 雷に打たれたような衝撃。

 俺は眼中に無かったと……!?

 それとも一度見たらもう二度と見たくない顔!? いや、記憶に全く残らない地味な顔……!? 後者のほうが、まだマシだ。



「そ……そうか」



 ハッキリ言って泣きそうだが、それに気づかれるわけにはいかない。学校で泣くなんてみっともないにも程がある。

 はあ……大野、いいやつだと思ってたのになぁ……。


 俺は机に突っ伏した。


―――――


「なあ裕也、つまりどういうこと? 俺、数学さっぱりでさ……」


「はぁ〜、やっと終わった。てか東京の学校ってすごいな! めっちゃ人いるし設備整ってるし!」


「裕也ー! 弁当食べようぜー!」



 な、なんだこいつ……松永の比じゃないくらいにコミュ力高ぇぞ……!?

 事あるごとに話しかけてくる……。授業中だろうと関係なく……。俺と大野で楽しく話してるみたいになって、授業に集中してない生徒扱いされるだろうがッ!!



「俺は一人で食べるのが好きだ。お前は松永と食べとけよ」


「ゆうちゃんの意地っ張り」


「違うわ。……お前ら二人はお似合いだから、二人で食べればってだけだよ」



 顔を覚えられないくらい地味な俺が入ったら場違いだもんな、という言葉は押し留めた。

 そこまで言ったら普通に人としてやばい。


 俺がもやもやとしていると、松永の澄んだ声が耳に入ってきた。



「うちはゆうちゃんと食べたいよ?」



 ゆっくりと顔を上げる。

 そこには、何いってんだかという、心底不思議でしょうがないといった表情の二人がいた。



「そうだぜ。俺も裕也と食べたい」


「「たーべーたーいー」」


「お前ら幼稚園児かっ!!」


「よっ、ナイスツッコミ!!」


「さっすがゆうちゃーん」


「それは褒められてんのか……?」



 俺は混乱した。なんでこんなに優しいんだろうと。

 でも、悪くないな――と思っていたその時。



「やった! ゆうちゃんやっと笑ったー!」


「え?」



 松永の言葉で、俺は無意識に口角が上がっていたのに気付いた。

 そうしている間にも、二人が勝手に机をくっつけてくる。



「はいじゃあ、一緒に食べましょうか!」


「裕也も笑ってくれたことだし」


「え、え?」


「俺達といるのが楽しいってことだろ?」


「目は口ほどに物を言う、ならぬ顔は口ほどに物を言う!」



 そんな感じで、二人に押されまくった俺は一緒に食べることになった。










「いやあ、今日はコンタクトつけてるから裕也の顔も柚の顔もよく見えるな!」


「……え?」


「前はコンタクト切れて買いに行ってたついでに柚の家寄ってみた時だから」


「ええええええ!!!??」



 まさか、まさか……。

 初対面で睨んできたのも、顔をよく見ようと目を細めただけ、顔がわかってなかったのも、コンタクトが無かったからだったのかぁぁああああ!!?

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