第33話 大野樹

「久しぶりだな!! 柚!!」



 割り込んできたのは色黒の、短髪男子。腹筋割れてそう(偏見)。スポーツ大好き! という雰囲気がすごく出ている。だが不思議と、チャラい雰囲気は無くハツラツとした感じだ。

 松永はいきなり呼びかけられて目を白黒させたかと思うと次の瞬間「えっ!?」と叫んで言った。



いつき!?」


「そうだよ! もしかして忘れてたのか!?」


「いやいやっ、忘れとらんけど! 急に来たけぇ……いや、てか言うてよ!? 来るなら来るって!」


「それだとサプライズにならねえだろ? 柚絶対びっくりすると思ったから、サプライズにしたんだ」



 なんか、急に感動の再会(?)みたいになってるとこ申し訳ないんだが……。


 誰!!??


 いやマジで誰!? 俺どういう反応したらいいの!? もう無言で立ち去ったほうがいいの!?

 よし、立ち去ろう! 幸い気配を消すのは得意だ!

 俺が固く決意した瞬間、最悪のタイミングで松永が俺を引き留めた。



「あ、ゆうちゃん待って!」



 何故!!?

 すると、ようやく樹という人物が俺に気づいたらしく、何故か睨んでくる。

 え、え、俺なんか悪いことした!?



「これ、幼馴染のおお樹。サッカーバカ。以上」


「これ言うな。あと説明雑すぎねえ?」


「樹。こちら、ゆうちゃんこと飛鷹裕也。優しゅうてかっこようて、ぶちいい人! あと、その……」


 

 急に言葉がしぼんで、ごにょごにょと言葉にならない音を発する松永。

 その反応を見た樹――いきなり名前呼びは失礼か――大野が、突然真顔で



「……へえ」


 

 と言った。み、眉間にシワが……。

 そしてキレ顔の「へえ」は怖い! 怖すぎる!



「あ、あの、えっと、よろしく……お願いシマス」



 すると、大野はきょとんとした顔で俺を見て、次の瞬間、豪快に笑った。



「はっはっは!」


「……え」



 何がそんなにおかしいのか分からなくて、俺は困惑した。

 しかし、くしゃっと笑う姿はその顔を一気に幼く見えさせた。



「いや、お前同い年に対してなんで敬語なんだよ!」


「え、あ、えっと……初対面、だから?」


「いや説明する方が疑問形でどがいなこと」



 松永に真顔でツッコまれる。だってしょうがないだろ。どういう返事が正解か分かんねえんだから。



「ったく……明日から同級生になるっていうのに、よそよそしいなー」


「は、え? 同級生って……まさか!」


「えっ、ちょ、樹、嘘でじゃろ!?」



 ニヤッと笑う大野。こいつ、完全に楽しんでやがる。

 何故か得意げに鼻の下をこすって、コホン、と一つ咳払いをすると



「そのまさかだ! 明日から俺は、柚と裕也、二人と同じ高校に通う!」


「「ええええええええ!!?」」



 あまりの驚きに、二人揃って口をあんぐりと開けたのだった。


―――――


 しかも。



「えー、今日からこのクラスに転校生が来ることになった」



 朝のHRで突然担任の口から出てきた言葉に、クラスが騒然となる。

 


「こんな短期間に、同じクラスに転校生って……ご都合主義の作り話フィクションかよ」


「男子かな~、女子かな〜」


「てか、急すぎない? もっと早く言ってよ〜」


「はい、静粛に!」



 パンパンと担任が大きな拍手を鳴らし、ようやく静まり返る教室。

 な、なんか松永が入ってくるときと同じような雰囲気だな……。


 ガラガラと扉が開く。


 そこに現れたのはやはり――大野樹だった。

 「きゃあーっ!」と女子が色めき立つ。まあ、大野はイケメンな方だもんな。



「大野樹です。広島から引っ越してきました! サッカーが大好きです! 将来日本代表になりたいです!!」



 よろしくお願いします! と元気よく頭を下げる大野は、短髪なのもあってどっちかというと野球選手のようだった。

 というか、自己紹介が――彼には悪いが――小学生みたいだな……。

 いや、いつまでも夢を追うのが悪いわけじゃないんだが。



「はい、ありがとう。じゃあ大野くんは――あそこの犬飼さんの横が空いてるから、そこで」


「ラッキー。窓際一番うしろの席じゃないっすか!」


「おい、大野。一番前にしてやろうか?」


「それは勘弁して下さい!」



 担任と大野のやり取りに、クラス全員がどっと笑った。

 すごいな、こいつ。陰キャの俺には真似できないことだ。


 ……ん? てか、犬飼さんの隣ってことは――



「裕也の後ろじゃねえか! よろしくな、裕也!」



 いや俺の後ろかーい!


△▼△▼


 前話(32話)の最後の部分で樹が柚に話しかけた場所が裕也の家の前になっていましたので、送っていった柚の家の前に修正しています。


「ご都合主義のフィクション」グサッ!

さ、作者の心が……(自分で書いて自分でショック受ける人)


 アップするのが遅くなってしまい申し訳ありません……。

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