第32話 俺の家で遊びまくる

 コトッ。

 リビングの椅子に座る松永の前に、麦茶を用意する。



「いやあ、最近暑うなってきたよね」


「そうだな。日も長くなってきた」



 今は5月末。今週の水曜に、6月になる。



「もうすぐ6月じゃけぇ、今年はジメジメした梅雨になりそう」


「暑い日の雨って最悪だよな……」


「わかる。髪崩れますよねー」


「うんうん――って陽茉梨、いつの間に会話に滑り込んだ!? 急に入ってこないでくれ……!」



 心臓に悪い。

 陽茉梨はぷくーっと頬を膨らまして、


「別にどのタイミングで入ったって私の勝手でしょ。おにいはそんなに二人っきりで話したいの?」


「いやそういうわけじゃないが……」



 すると陽茉梨は、どこかホッとしたような顔で「そっか。そうだよね」と頷いた。

 いや何に納得してるんだよ。

 松永が家に来てから、陽茉梨は何か変だ。いや、いつも通り愛らしい妹なのだが。なんだかこう……悩んでいる、というか、不安そうな顔つきだ。

 何かあったのだろうか? 陽茉梨はいつもすぐ決断する方だが、友人のことや大切な人のこととなると、一生懸命考えすぎて徹夜してしまうこともある。

 もしや、学校で何かトラブルが……!?



「陽茉梨、何かあったのか?」


「いや、別に」



 本当か? 陽茉梨は嘘をつくのが上手いというか、人に心配をかけまいと必死だからな。それで一人で抱え込んで、裏では泣いている。

 全く……たまには他の人俺のことを信頼してもいいのに。


 そんな陽茉梨は嘘をついている時に目を逸らし、右の髪をいじる癖がある。

 うん、今まさにそうしている。間違いない。

 ただ、ここで問い正すのは違う。後で聞こうと思った俺は話題を変えることにした。



「女子はやっぱり、雨が嫌いなのか?」


「うん、さっきも言ったけど髪がねぇ……」


「うちゃどっちでも。雨が降ると落ち着くけぇ好きじゃけど、ずっと続くと嫌かいねぇ」


「あ〜……ちょっと分かる気がするな」


「お兄ちゃんはクラスメイトに遊びに誘われることなんて無い陰キャニートでしょ。雨が降っても止んでも関係ないじゃん」


「み、耳が痛い……」



 妹の言葉がグサグサと心にっ……!

 その光景を見て、松永が笑いながら



「仲ええ兄妹じゃのぉ」



 と言い、俺が自慢気に「まあな」と言おうとするとそれを遮るようにして



「絶対無いやめてやめてやめて」



 と全力否定された。泣きそう。

 俺が傷ついているのをよそに、陽茉梨が「あ、ごめん。私ちょっと自分の部屋戻る」と言って立ち上がる。

 トントントン、と階段を上がっていく音を聞きながら、俺は麦茶をゴクゴクと喉を鳴らして飲む。



「……」



 え、どうする?

 何を話せばいいかわからない……陰キャだから……。

 気まずくね? もう気まずいとかいう概念通り越して怖い。この空気が怖い。

 てか、松永もなんか話せよ! 俺が話せないの知らねえの!? 普段はあんなに喋るじゃねえか……! くっそ……!(?)

 俺は謎の悔しさから、勢いよくコップを置いた。ダンッと音が立つ。

 予想外の大きい音に、自分でびっくりする。



「自分でやって自分で驚いとる……」



 そんな俺の様子を見て、松永が声を殺して笑った。

 俺は「重力に引っ張られたんだよ」とわけわからん言い訳をして、最終的には一緒に笑った。

 なんだ。あんまり緊張しなくて良かったんだ。

 こいつといることに安心感を覚えた俺は、その後二人で遊びまくった。


 人生ゲーム。


「「お互いのいいところを、言う……?」」


 

 なんてマスに止まったんだ……。



「コホン、じゃあうちから言わしてもらうね? ゆうちゃんは、優しゅうてかっこようて、でも実は裏で頑張っとる、すごい人!」


「バッ……褒め過ぎだ! ……松永は」


「うん」


「明るくて元気で……人をその気にさせるところが、俺は結構、好き」


「なっ……あほー!!」


「グハッ……!!」



 ババ抜き。



「松永……」


「な、なにっ?」


「お前……分かりやすすぎ。顔に全部出てる」


「うわあああなんで分かったのおおお!?」



 スピード。


「くっそ……また負けた」


「ふふん、反射神経はうちの方が上のようじゃのぉ?」


「スピードは反射神経なのか……?」

 


 ちなみに、なんでこんな子供みたいな遊びになったかというと、うちにはビデオゲームなどが一切無く遊び道具がこういうのしか無かったからだ。


―――――



「よしっ、じゃあそろそろ帰ろうかなー」


「送る」


「ほんとっ!?」


「いやお前絶対また迷うだろ……。別に変な意味はないから勘違いすんなよ」


「ちぇ」



 松永は不機嫌な様子で荷物をまとめると、「お邪魔しましたー」と律儀に挨拶してドアを開ける。



「それにしても……」



 しばらくして、俺の方を振り向いた松永が言った。



「麦茶頂戴、なんて一言も言うとらんのに、なんで分かったの?」


「え」



 そういえば、そうだ。

 直感で「松永は麦茶が飲みたいだろうな」と思って選んだが……。

 どうしてそう思ったんだろう。



「ねえ、ゆうちゃん。もしかして――」



 松永が何か言いかけたその時。



「あっ、柚じゃねえか!! 柚ー!!」



 突然、誰かが松永を呼びながら割り込んできた。


△▼△▼


 新キャラやっと出せた……。(出すタイミングをつかめなかった人)

 明日は状況によっては公開しないかもしれません。申し訳ないです。

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