第27話 初のバイト③

 今話も長くなってしまいました……。


△▼△▼


「遥乃ちゃん、飛鷹くん。仲がいいのは分かったけど、罰として今日のバイト中は私語を交わさないように」


「「……はい……申し訳ありませんでした」」


「分かったならよろしい。ところで、そこにいるお客様は飛鷹くんのお友達かな?」


「はい」



 なんで松永のほうが返事早いんだよ。まあ友達で合ってるからいいけど。



「知り合いなんだったらあんまり緊張せずに接客の練習が出来そうだね。飛鷹くん、このお客様の接客お願い」


「ちょっと店長、それは……」


「どうしたんだ、遥乃ちゃん? 飛鷹くんの接客練習のチャンスなんだよ」


「それは……そうですが」



 遥乃ちゃんは複雑な表情で「……そろそろ仕事に戻ります」と一礼して厨房に戻っていった。

 そして松永は、何故か獲物を見つけた猫のように目を輝かせた。



「じゃあ、案内エスコートしてもらおうかな? ゆ・う・ちゃん」


「エスコートって言い方やめろ」



 なにか、嫌な予感がする。


―――――


 俺の予感は外れたらしい。てっきり無茶ぶりされるとばかり思っていたのに。



「んふふ」


「何一人で笑ってんだ」


「んー? ゆうちゃんが働いとる姿見れて嬉しいなーって」


 

 どうやら、本気で俺のことを見に来ただけらしい。



「いや、大したことしてないし俺をじろじろ見るな」


「いーのいーの! 学校では見られん特別な姿……。最高っ」



 胸を打たれたように大げさなリアクションをして見せる松永。



「推しのプライベート見ちゃったファンみたいになってるぞ」


「どっちかというと好きな人の私服姿を買い物先で見てしもうた学生じゃろ」


「確かにそのほうが現実的だけどどっちでもいいだろ」



 そんな変わんねえし。つーか、好きとかいうな。さっさと注文してくれよ。仕事じゃなくてただの会話になってんだけど。

 とか考えてるとまた松永がなにか喋ろうとしたので、わざと遮る。



「コホン、それではお客様、ご注文をどうぞ」


「ちぇー。じゃあ、カプチーノを二つ下さい」


 

 なんで二つ? と思ったが、特に気にせず



「かしこまりました。店長が無料でラテアートをしてくださいますが、どうされますか?」


「! ラテアート……! やって下さい!」


「お、おう……。ラテアートの模様はどうしますか?」


 

 思った以上に食いついた松永に少し驚きながらも、模様を聞く。

 すると、松永は少し考えた後に言った。



「やっぱり……一つは定番のハート、ですかね。もう一つは、店員さんのお好みで」


「え、俺……じゃなくて、自分の好みですか?」


「はい!」



 きれいに並んだ白い歯を見せながら、無邪気に笑う松永。

 一瞬弓矢を持った天使が現れたような気がするが、無視する。



「……かしこまりました。少々お待ち下さい」


「了解です!」


 

 俺はくるりと回り、松永に背中を向ける。わざわざ店員に向かって「了解です!」だなんて……あまり店に行ったりしないタイプなのか?

 緩みそうになった口元を手で隠しながら厨房へ向かう。


 そんな俺の様子を、ある人物が見ていたなんて、全く気づかなかった。


―――――


「店長、カプチーノ二つお願いします」


「了解。ラテアートは?」


「あ、片方はハートと……」



 そうだ、もう一つ……えっと、俺の好きな模様か。

 とっさに頭に浮かんだのは、猫だった。俺は猫が大好きなのだ。



「もう片方は、猫でお願いします」


「分かった。猫は立体ラテアートかわいいんだけど、僕は出来なくて。ごめんね」


「いえいえ、ラテアートが出来るってだけですごいですよ!」


「はは、ありがとう。五分で出来るから、待っててね。そうだ、その間、お友達――今はお客様か。と話してていいよ」


「ありがとうございます」



 俺は店長に一礼すると、松永の元に向かう。

 いや、マジでラテアート出来る人尊敬する。俺だったらぐちゃぐちゃになってめっちゃイライラするわ。

 松永の座っている席が見えたその時。



「ねーねー君一人?」


「待ってこの子めっちゃかわいくね?」


「俺らとこの喫茶店でこのままお茶してこうよー」



 三人のチャラい男子が松永を囲んでいた。大学生か?



「えと、ごめんなさい。うち、待ってる人がおるけぇ――」


「広島弁じゃん!」


「マジでいるんだw この東京のど真ん中に?」


「なおさらかわいいー。やっぱ俺らについてきなって」


「きゃっ」



 俺はなんとか助けようと思った。

 店長を呼ぶとか、他に方法は色々あったと思う。だけど、松永の手首が掴まれたのを見た瞬間、俺は何故か怒りがこみ上げてくるのを止められなかった。



「やめて下さい。ここ、公共の場なんで」


「ゆうちゃん……」



 俺は気づいたら、その男の手を払って松永の前に立っていた。

 その瞬間、自分が何をやっているのか気づいて、さっと血の気が引く。



「は? 何? 今この子と喋ってたんだけど。部外者入ってくんなよ」


「ここの店員? いやバイトか。バイトごときがお客様に何してくれんの?」


「クレーム入れるぞ?」



 俺はガクガクと震える足をなんとか抑えて、一生分の勇気を振り絞る。



「すみませんが、この女の子もお客様なので。お客様が困っていたら助けに入るのは店として当然の責務です」


「何? この子の彼氏かなにか? お前関係ねえじゃん」


「てか困ってないから。ねえ?」


「いや、えっと……」



 いやどっからどう見ても困ってんだろうが。目腐ってんのか。

 それまでどうにか自分なりの営業スマイルを保っていたが、笑うのをやめて鋭い目つきになる。

 俺は大きく息を吸い込むと、ハッキリと言い切った。



「彼氏ですけど? 俺の彼女に何してくれてるんですか? いくらお客様でも許せません。それともなにか? 今の時代に、『お客様は神様だろ』と言い張るおつもりですか? だったら俺はもうバイトを辞めてこの店のお客様になって対等になってやりますよ」


「は……はぁっ!?」


「お、おめぇ舐めた口聞いてんじゃねえぞ!?」



 俺がこんなに饒舌に喋ると思っていなかったのか、男共がビビる。

 俺も自分でびっくりだよ。こんな滑舌よかったっけ?



「神同士の戦い……始めましょうか? 店長、すいません――」


「て、店長呼ぶ気か!? チッ、覚えとけよ!?」


 

 すみませんが、もう忘れました――と言おうとしたが、それを言うと火に油を注ぐことになってしまうだろうから、口を閉ざす。

 そして何より――



「ゆうちゃん、ありがとうっ!」



 松永が俺に抱きついてきたからだ。


△▼△▼


 チャラ男(?)よっわ。

 よくある展開だけど、こんな弱い人ら意外と少ない(作者が出会ったこと無いだけ……?)

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