第22話 記憶
「は……? 明日?」
どういうことだ? 今までこんな風に誘いを受けたことはなかったし、委員長とは授業の内容を送る、送られるだけの関係だが……。
ハッ、もしや……今まで授業の内容を送るのが実はめんどくさくて、ようやく送る必要がなくなったから今までのお礼しろよ的な……!?
い、いやいや! 委員長はそんな性格悪くねえ!
でもだったらなんの用だ? 陰キャを誘うなんてどういう風の吹き回しだ? 何を考えてるんだ?
一体俺の何を求めt――
いやこの考えきっしょ! 俺今めっちゃきしょかった! なーに自意識過剰になってんだよ!
委員長はただ……何をしたいんだろう。
いやまあ、明日行けば分かる! このもやもやを取り除きたい! 勉強に集中出来ねえからな!
「俺は暇だからいけるけど……なんで?」
『それは明日言います』
「(了解にゃ、という猫のスタンプ)」
スマホをベッドに投げると、ぼふっと跳ねた。
俺もそのままダイブする。すると、急に眠気が襲ってきて、俺は眠りにつくのだった。
俺は夢を見た。
野原の真ん中に、幼稚園くらいの小さな男の子と女の子が立っている。
女の子が、男の子に向かって、
『ねえ、ゆうちゃん。これあげる』
と言った。
『なにこれ?』
『しろばなたんぽぽっていうおはな』
女の子の手に握られていたのはタンポポそっくりな真っ白い花が一本。
『ふーん』
『きれいなおはなだよね』
『XXちゃんのほうがきれいだもん。かわいいもん』
あ、れ……女の子の名前だけ……水の中にいるみたいに、くぐもっていて聞こえない……。
『……ありがと』
『そうだ!』
『?』
男の子は、とても器用に花の指輪を作り始めた。
完成した指輪を、女の子の――こんな幼少期から知っていたのか、偶然なのかは知らないが――左手の薬指にはめた。
『ぼくとけっこんしてくだしゃい』
『ふふっ。ゆうちゃん、だいじなところでかまにゃいで』
『XXちゃんもかんだ!』
『かんどらんもん!』
『かんだ!』
『かんどらん!』
キャハハ、と笑いながら、野原を転げ回る二人。
飛んでいったたんぽぽの綿毛が、二人の幸せを祝福しているように見えた。
なんて、平和でのどかな風景だろうか――
「――にい、おにい!」
「ん……?」
「ん? とか寝言ほざいてんじゃない! 晩ごはん出来たって――ちょっ、おにい!?」
俺は何故か無性にさみしくなって、起き上がって妹に抱きついた。
「ちょちょちょちょきもいきもいきもいきも」
「ごめん」
「……え」
「我慢させて……ごめん……」
「……」
「頼りない兄ちゃんで……ごめんな……」
陽茉梨は、何も言わずに俺を抱きしめ返してくれた。
「俺……急に寂しくなった……でも、陽茉梨のほうが絶対辛いし、我慢してるし、でもそれを絶対表に出さないように気遣ってくれてるんだよな?」
「……」
「頼りない兄ちゃんでごめん。だけど、俺は陽茉梨が幸せになってくれれば――」
「私はおにいが幸せになってくれないと幸せじゃない」
「っ……」
「ねえおにい。なんでそんなに一人で抱え込むの? 私、寂しいよ。そんなに私って頼りにならないかな? ねえ、おにい……――私を、見て」
俺は、ゆっくりと視線を上げていく。
「『幸せにしてやれない可哀想な妹』じゃないから。ちゃんと、ちゃんと……私を、一人の人間として見てほしいの。そんな特別扱い、しなくていいから。お母さんとお父さんがずっと家に帰ってこないのは、寂しいよ。でも、おにいにずっとその態度を取られるのが、私にとっては一番寂しいの……」
俺はその時――初めて陽茉梨を、ちゃんと見た。
幸せにできない自分に罪悪感と背徳感を感じて、俺は自然と陽茉梨から目を背けていたのかもしれない。
それからどちらともなく泣き始めて、最終的に二人でギャン泣きした。
数十分後、夕飯を食べるとすっかり冷めていて、二人で笑った。
それでも美味しかったからどうでもよかった。
あ、そうだ。
「なあ、シロバナタンポポって知ってるか?」
「なにそれ? 白いたんぽぽってこと? そんなのあるの?」
「だよな……」
「えーっと……こんな感じだって」
陽茉梨が検索して画像を見せてくれる。やっぱり、夢で見たのと同じだ。
「これがどうしたの?」
「いや……なんでもねえ」
どこかで見たことがある気がする。ただの
気にする必要はないはず――なのに……。
なんで、こんなに懐かしく感じるんだろう……。
△▼△▼
……あれっ? 委員長どこ行った?
【悲報】作者、登場人物を忘れる
ごめんね委員長……全然登場させられなくて……今後の課題として考えていきますっ
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