第14話 ゆうちゃんとのRAIN 柚Side

「ひゃ〜っ! ゆうちゃんとRAIN交換してしもうたー!」


 

 うち、松永柚は、家に帰ると服も着替えんでベッドにダイブした。

 その顔はかつてないほど喜びに満ちとったんじゃないかと思う。



「くぅ〜! 嬉しい〜! 幸せ〜!」



 枕に顔をうずめ、足をバタバタさせる。

 えへ、えへへ、と気持ち悪い笑い声を漏らしながら、スマホを開く。



「これからよろしゅうね……っと」



 すると、すぐに返信が!

 うちはかぶりつくように画面を凝視。



『おう』


「おう!?」



 おうって何〜! 何その冷たい感じ〜! ひやっこすぎて風邪ひくじゃろ。 ゆうちゃんらしい〜!

 って、うちはドMじゃない! 違う違う!

 ゆうちゃんのことじゃけぇ、きっと会話を終わらしたかったんじゃろうな。

 今日仲直りした思うたけど、違うんじゃろうか……。

 とりあえず、会話を終わらせんためにメッセージを送信する。



『返事短うない!?』



 すぐに既読がつくの、嬉しい……。



『まあゆうちゃんらしいけど』『これが俺流なんだよ』



 ゆうちゃんとおおかた同時にメッセージを送っとったことに、胸が高鳴る。



『あはは! あ、ほうじゃ。さっきの会話で、ゆうちゃんが『なんで俺にそこまで執着するんだ?』って言いよったじゃろ? あれなんじゃけどさ……』


『うん』



 その時うちは、嬉しさで舞い上がってぼーっとしとったけぇ、いつの間にかこがいなメッセージを送っとった。



『一目惚れじゃ』


「うわあああああっ!!??」



 驚きすぎてベッドから転げ落ちる。

 やっ、やばいやばいやばい!! 急いで消さにゃあ! ああでもっ、もう既読ついとる〜!



「送信取り消し、送信取り消しぃぃいっ……!!」



 震える手でなんとか送信取り消しボタンを押し、うちはため息をついてへなへなとへたり込んだ。

 ボフッとベッドにスマホを投げるも、すぐにまたスマホを開く。

 送信取り消しだけじゃ逆に焦っとる思われるけぇ、ちゃんと弁解せにゃあ……!


 ええっと、ほうじゃ!



『うちみたいな美少女が転校してきたのにのんきに寝とる人がおるなって思うて気になったの! それだけじゃ!』


『自分で美少女って言うのかよ……引くわ』


『引かんでぇ!?』



 ひ……引かれた……!?

 ベートベンの交響曲第5番の『運命』が頭に響く。

 


「うち……終わったかも……」



 はぁ……なんで「一目惚れ」やらほんとのこと言うてしもうたの!?

 しかもぶち昔の話じゃし……。


 5分間真っ白になって落ち込んどったうち。



「まあ、しょうがない。ゆうちゃんに返信せにゃあ――って、会話終わっとる!?」



 うちの『引かんでぇ!?』で会話が終わっとって、うちゃ悲しみのどん底に。



「はぁ……もうやじゃ……」



 と呟いたその時じゃった。

 

 ガチャッ


 下の一階から、玄関の開く音。

 うちはドキッとして、顔を強張らした。



「やばっ」



 うちは急いで勉強机へ向かう。

 まるで「ずっと前から勉強しとったよ?」いうスタイルを即座に作り、一生懸命勉強に励んどる様子を取り繕うた。

 トン、トン、トン、と、階段を上がってくる足音。

 うちはシャーペンを走らせる。カリカリいう音が部屋に響く。


 カチャッ



「柚、ただいま」


「うわぁびっくりした! もー、急にドア開けないで下さいよ、お母様」


「ごめんなさい。ちゃんと集中して勉強してるのね。偉いわ」


「んふふー、当たり前ですよ」


「じゃあ、私は夕食の準備してくるわ。最低15ページは終わらせなさいよ」


「はいはーい」



 キィ……カチャ。

 足音が遠ざかっていくのを確認して、ふぅー……と息をついた。


 早うゆうちゃんに会いたいなぁ……。


△▼△▼


 今回から作者の感想を書くことにしました。

 ベートベンの「運命」っていう曲名が出てこなくて、「ジャジャジャジャーン」で検索したら一発で出ました。やっぱりみんな分からないんですね。よかった私一人だけわからないってことじゃなくて。と安心しながら書いたこの話。

 伏線? みたいなものが(多分)張られてると思うので、色々考察してみて下さい。


 毎朝6:13更新です。

 感想などあればコメント頂けると嬉しいです。

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