第6話 垣間見えた妖しい輝き

「じゃーん! 見て見てっ! 綺麗な景色やろ〜? 他にも空き教室はあったんやけど、この教室が一番綺麗やから!」


「あ、ああ……。そうだな」



 確かに三階から見える景色は外が見渡せて綺麗ではある。

 ……てかお前、水族館ではしゃぐカノジョみたいな反応してるけどさ。



「なんだよあいつ、手繋ぎやがって」


「非リアの俺たちに見せつけてんのか? あ?」


「クソ野郎が」


「人類の敵」


「誰かあいつを殺してくれ」


「飛鷹絶対殺す隊、行くぞっ!」


「おおっ!」



 いつの間にか物騒なもん作ってやがる!?

 こいつといるとマジのマジで俺の命が危ないぞ……。



「さ、食べよか!」


「「「「「「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」」」」」」



 告白以外でちょっと待ったってありなのかよ!?



「その弁当、俺が食べさせてもらおう!」


「いーや俺だ!」


「少なくともこいつ飛鷹ではない!」



 扱いひでぇな!?

 心のなかでツッコミを入れていたその時だった。


 ……前の集団クラスメイトからではなく、松永からもの凄い殺気を感じる。


 さっきまでの騒がしさが嘘のような沈黙。

 全員が感じるくらいの殺気ってことか……?

 俺は引きつった笑顔で、恐る恐る松永に顔を向ける。どんな恐い顔を……――っ!?

 


「うちがゆうちゃんにお弁当を食べて欲しいって言うてんのに?」



 笑っていた。

 多分、絶対、世界一恐い笑顔だ。



「なしてあんたらに食べさせにゃあいけんの? ゆうちゃんのために作ってきた弁当を、あんたらの勝手な欲望で奪われる? そんなんあってたまるか!」


「い、いや……」


「ああ、こがいに言うても分からんのか。どうせ脳こまいんじゃろうな」


「うぐっ……!」


「やばい、俺の中のなにかがっ……!」


「ああ、もっと貶して……」



 なんかヤバい奴とドM混じってるんだが?



「い、いや、俺は分かります! だから、嫌わないで……」


「あ、そう。じゃあ、今すぐ出て行ってくれる?」


「え」


「ええけぇ早う出え!!」


「はいぃっ!!!」



 あ、般若だ。般若が居る。オカルト好きの人ー、ここに生の般若がいますよー。

 てかガチギレするとこんなに怖いのか……気をつけよ。

 と思っていると、柔道やってそうなガタイのいいやつが仁王立ちをして宣言した。



「いーや、俺は出ない! こいつと食べるなんて許せん!」


「頑固すぎじゃろう。それか単純に理解が出来んの?」



 ちょっと毒舌になってきてないか……?

 俺が松永を観察&分析していると、松永が顔を上げて言った。



「はぁ……これ以上粘るんじゃったら……」



 その時、顔を上げた松永の目。

 妖しく、悍ましい。異様な輝きを放った目に、俺たち男二人は惹きつけられた。



「……分かっとるよな?」


「はいぃっ!!!」



 マジか、男子高校生が半泣きで逃げ出したぞ。

 でも、俺もフリーズして動けなくなるほど、怖かった。

 ……怖いなんて言葉では言い表せないほど。

 

♡♡♡♡♡


 ――そして今に至る。

 いやいやいやいや、こんな展開ありかよ!?

 

 あの後、すぐにふにゃっと笑顔になった松永。

 震え上がって半ば腰が抜けた俺を起こして、向かい合わせで席に座る。



「……」


「……」


「……………お前さ……」


「ん?」



 俺は左を見て、ハハ……と乾いた笑いを漏らした。



「見ろ! 松永さんとクソ陰キャが向かい合って弁当食べてやがる!」


「クソオオオオオッッッ!!!」


「ギルティィィィイ!」


「いつか絶対処刑する!」


 

 ゾンビが扉叩いてるシーンみたいだな……。


 はあ、松永のやつ……本当に厄介だ。

 なんでいちいち俺を巻き込んでくるんだ? 俺は全くの無関係なのに!

 まさか、新たないじめか!? 俺が陰キャだからって! 自分は美人だからって!

 

 ……決めたぞ。


 俺は、この女の化けの皮を剥がしてやr――



「はい、あーん!」



 ズコッ。

 こちとらお前に復讐を誓っていたところなのに、あーんだと!?



「無理だ。もう俺に関わるな」


「まあまあそんなケチらんで」


「ケチじゃねえわ!」



 ケチとかそういう問題じゃねえだろ!

 ったく……と呆れながら、卵焼きを口に運ぶ。


 ……結構美味いじゃねえか。


 甘い。すごく甘いはずなのにあっさりしてて無限に食べられそうだ。

 無言でガツガツと食べていると、松永が嬉しそうに言った。



「気に入ってくれんさったんじゃの! 良かった良かった。頑張って作ったかいがあったわ!」


 

 窓から差し込む太陽に照らされたその笑顔は、太陽よりも輝いて見えた。


△▼△▼


 毎朝6:13更新です。

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