第5話 なんでその発想になるんだよ

「なんだよあいつ……」


「ゲスが」


「て、手作り弁当だと……」


「俺、吐き気が……ウッ! 心臓がぁぁあ!!」


「生きろー! 山田ぁぁあ!!」


 

 ……うん。



「ほらゆうちゃん、遠慮せんでええんじゃ!」



 どうしてこうなったぁぁ~?



 時間はほんの少し遡る。


 腕を掴んできた女子は松永だった。



 ……お前かよ。

 俺はため息をついて、言った。



「何の用だ」


「一緒にお弁当食べよ!」



 俺は上からタライが落ちてきたかと思うくらい、頭が痛くなった。

 お前さてはKYなのか!? 俺はかなり冷たくお前をあしらったんだぞ! なのに何だよ、「一緒にお弁当食べよ!」って!



「は? あいつ、松永さんと手を……!?」


「ぶっ◯す!」


「あいつが無理やり掴んでるんじゃないか!?」


「いや、見れば分かるだろ! 松永が無理やり掴んできてるんだが!?」



 俺は反論を試みる。



「言い訳なんて最低だな!」



 事実だよ!


 俺は怒りのあまり、爪が食い込むくらい手を握りしめながら、無理やり口角を上げて松永に言った。



「俺は購買で買ってくるから大丈夫だ」


 

 陽茉梨は料理上手いのに弁当作ってくれないし。



「ダメなんよ! うちはA型じゃけぇ、購買で買うとると気になるんじゃ!」


「絶対A型関係ねえだろ!」


「も〜、駄々こねないの! 屁理屈ばっかりぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……素直になりんさい!」


「屁理屈も駄々もねえよ!? これが素直なんだよ!」



 てかお前の方が屁理屈だろ!?

 俺はもう我慢できなくなり、思わず松永に言い放った。



「頼むから一人にさせてくれ!」



 大声を出し、松永の手を振り払う。

 そのまま購買まで歩けばいいのに……足が動かない。


 ……やりすぎたか?


 って、なんでそんなこと思うんだよ!

 こんくらいしないとこの女には伝わらねえんだから――



「う……ううっ……」


「!?」



 ぎょっとして振り向くと、そこには子供みたいにわんわん泣く松永。



「ちょ、松永」


「ご……ごめんな……迷惑かけて……」


「あ、い、いや、別に」



 おいおいおいおいマジか!?

 俺は松永を泣かせたのか!? ちょっと待ってくれ、お前が泣くと俺は――



「「「「「飛鷹ぁぁあ!!!」」」」」


「ぶっ殺す!」


「今すぐ処刑だぁあ!」


「ギィィルティィィイ!!!」


「お前ら行くぞ!」


「「「おうっ!」」」



 やばいやばいやばいやばい!!!!

 これは確実に死ぬ!!



「ま、松永! 頼む、頼むから泣き止んでくれ!」


「お弁当……食べてくれたら……泣き止むぅ……」



 この女! 絶対嘘泣きじゃねえか!? 涙ぼろぼろ出してっからマジモンだと思っただろうが!



「分かった! 分かったから! 食べるから!」


「ほんま!?」



 その瞬間、周りに花が咲いたかと思うくらいの完璧な笑顔。

 ……俺の周りは福寿草(血を吸って咲く花)が咲くところだけどな。

 っていうか、これはこれで問題があるのでは……。



「こいつ……松永さんの優しさに漬け込んで手作り弁当を食べるだと!?」



 なんでそうなるんだよ!

 さっきから思ってたけど、復讐(?)のためになんでもかんでも理由つけやがって! ただの嫉妬だろうが!

 それに目がガチなのが怖いわ!



「クソッ……許せねえ!」


「でも松永さんを泣き止ませたから今は一旦退いたほうがいいんじゃないか?」


「確かに……こいつに復讐するために松永さんの笑顔をぶち壊すのは違うか……」


「そうだな……お前ら退くぞっ!」


「「「おうっ!」」」



 なんだったんだよ!



「さっ、行こう!」


「えっ、あ、い、いや」



 俺は殺されるのを回避するために了承しただけなんだが……。

 てか力強っ! 最初掴んだときこんな強くなかったのに急に強くなってる!?

 いや俺が陰キャなせいで力が弱すぎるだけか……? 女子にも負けるくらいに弱いのか……?めちゃめちゃ屈辱だ……。


 俺が呆然としていると、いつの間にか屋上手前の踊り場に着いていた。

 ダメだ、ここまで来たらもう諦めよう。


 しかしその時、俺はあることに気がついてしまった。


 確か屋上はがあって以来利用できないはず! これで松永が諦めてくれたら、あとでクラスメイトから殺されることもない!

 俺の勝ちだ!



「あれ? かん……」



 やっぱりな!

 この流れで弁当を断ればいいんだ!


 いやでも待てよ? 屋上じゃなくても弁当は別に食べれるし、俺の計画は意味無いのでは……。



「えー、屋上が良かったのになー」


 

 っしゃあ!

 それなら断りやすい!

 俺は心の中でガッツポーズをしながら、松永に言った。



「お前が希望した屋上は無理だから、今日はやめとk」


「じゃあ空き教室行こ!」


「あ?」



 な・ん・だ・と?

 なんでその発想になる? 素直にお弁当を諦めようぜ?



「おおかたあるじゃろ? 案内して!」


「え、えっと……」



 いや、あるにはある。北にある旧校舎。昔は北校舎として使用されていた。らしい。

 生徒数が少なくなったとか使われなくなったとかなんとか。

 だがここは無いと言うところだろう。



「いや、無いな」


「え〜ほんとに〜? ゆうちゃんってさ、嘘つくとき首に手回すよな」


「……その手には乗らんぞ」


「ちぇっ! 釣れんかぁ」



 カマかけるには下手すぎないか。

 


「でもさ。あるんじゃろ? 嘘ついてまでうちのお弁当食べてくれんの……?」



 おいおいおいおい、また泣くのか? 勘弁してくれ。



「い、いや、マジで無いから」


「……昨日の放課後、学校探検してきたけど? あったけどな? 北にある旧校舎」


「うっ……」


「おーし、行こう!」



 俺は観念して、松永に着いていくのだった。

 マジでぬかりなさすぎだろ、松永……。


△▼△▼


 毎朝6:13更新です。

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