第3話 毒舌な妹とお節介な女
キーンコーンカーンコーン。
「んんー……」
今日もよく寝た。
俺はそう思い、寝て最初にするルーティンである“伸び”をする。
さて、俺が学校で唯一起きている時間――それは休み時間である。
この十分間だけは、何故か起きていられるのだ。
しかし今日は――起きなければよかったと後悔した。
「飛鷹ぁぁあ!」
「◯ねぇぇえ!」
「ギルティィィイ!!!」
俺の机に集まってくるなぁぁあ!
これには流石の俺も参って、陰キャスキル《
気配を消したまま校舎裏に逃げ、ようやく息をつく。
や、やばい……久々すぎる全力疾走……。
心臓が……ドクドク言ってる……。
「はぁっ……はぁっ……」
息を整えていると、もたれかかっていた窓が急にスパァン! と開けられ、後ろに転げそうになる。
振り返ると、そこには――
「おにい、大丈夫そ?」
ニヤニヤと笑う俺の妹、
❦❦❦❦❦
「「「「飛鷹はあっちだって話だぞ! お前ら急げっ!!」」」」
複数の男子の足音が遠ざかっていく。
「助かった……。マジで……」
陽茉梨に窓から引っ張り上げてもらった旧校舎の中に隠れながら俺は一息ついていた。
「ま、噂が流れてきたからね〜。『三年寝太郎クソド陰キャが美少女転校生とイチャイチャしてやがる』って。そんなのおにいしかありえなくない?」
「さらっと心を抉るなよ……」
ふわふわとカールしたボブヘアの陽茉梨は、口調もふわふわとして一見優しそうに見えるが……実は結構毒舌である。しかも俺にだけ。
「おにいは悲しいよ……。昔はあんなにかわいかったのにな……」
「きっしょ、死ね」
「マジで泣くぞ?」
「泣いてる陰キャと一緒にいたら私まで変人に見られるからやめて?」
というのがいつもの流れである。
「でもマジで助かった。お前が
「何、殺されんの?おめ」
「比喩じゃなくてマジで殺されそうだ。あと祝うな俺の死を……いや、呪うのもダメだから!」
そこで二時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴る。
「あ、サイアク。おにいのせいで内申点下がったらどうしてくれんの?」
「本当に申し訳ありませんでした」
❦❦❦❦❦
ガラガラガラ……。
俺のスキルでも、流石に教室のドアを開ける音は避けられない。
瞬間、クラスメイト(主に男子)が獲物を発見した狼のような目でこちらをギロリと睨んでくる。
こ、こわ……。
恐る恐る席に座る。よかった、机や椅子には何もされてない……。
すると、右肩に紙くずが当たった。
「ん……?」
紙くずを開くと――
『なんで遅うなったの?』
俺はその紙の裏面に、『色々あったんだよ』と書いて返した。
そして俺は、顔を伏せてゾーンに入ろうとした。
しかし――
「先生! ゆうちゃ――飛鷹くんが起きてくれないです!」
お前余計なことしやがってぇぇえ!!
「なんだと!? せっかくの美少女が隣にいるのに寝るなんて、万死に値するぅぅう!」
「ギルティィィイ!!!」
結局この流れかよ!
しょうがない……これ以上炎上したら俺の身が危ない。
渋々数学の教科書とノート(もちろん全ページ白紙だ!)を開く。
幾何の問題か……なんかノートに線引くみたいだな。定規出すのもめんどくせぇ、フリーハンドで書こう。
そう思い、線を引こうとすると――
「これ、貸す」
そう言って松永が定規を渡してくる。
お前どんだけお節介なんだよ……!!
「いや、いいわ」
「そっか。残念」
納得してくれたんだな、と思った矢先。
松永が大きく息を吸った。
待て。待て待て待て!こいつ、またチクる気か!?
「わ、分かった分かった。ありがたく使わせてもらうわ」
「よかった。――あ」
「?」
松永はなにかに気づいた様子で、慌てて言ってきた。
「あのっ、違うからな!? うちはA型やから、ヨレヨレの線になったら気になるから貸したってだけで! 別に変な意味は無いからっ」
「? ああ。どうした、急に」
「い、いや、誤解されとうないなって思うて」
「誤解するも何も無いだろ」
「そ、そそそうやんな!」
変なやつだな。
そう思いながら、俺は本当に久々にまともに授業を受けたのだった。
全力疾走したこともあって、いつも以上に眠かった。サイアクの日だ、今日は。
△▼△▼
本日の18時13分、第四話公開です。
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