第10話 (終)

 でかいやつを、殺した。

 反動でふっとばされる。

 壁にぶつかって。壁ごと屋内に。


 偶々に。彼女の部屋。もうでかいやつは殺したので、彼女以外のことも分かるし、彼女とも接触できる。しかし壁がなぁ。普通に玄関から入りたかった。


 彼女がいる。ラップトップを眺めている。


「よぉ」


 返事はない。


「とりあえず料理だ」


 インカムで任務完了と壁の補修依頼を伝え、キッチンに向かう。


 肉を焼く。でかいやつ。まだ身体がダメージを残しているので、ちょっとなんか、筋肉痛の次の日みたいな動きではある。まぁ、肉を焼くのに支障はない。


「よし」


 出来上がった肉を、彼女のまえに置く。


「食え」


 彼女は。たぶん。記憶を失った。もう戻らない。


 とはいえ、こちらの記憶は戻っているので。完全に終わってしまったわけではない。まだ取り戻せる。記憶はなくても、彼女の前にいれば。いつか思い出すだろう。分からんけど。


「まだまだ焼くぞ。牛丼も作るか。アイスはあるか」


 彼女。もそもそと肉を頬張りだした。いつものド派手な食べ方ではない。その感じが、どこか切なかった。


「おいしい」


「おいしいか。そうかそうか」


 彼女。泣きながら、もそもそと肉を、食っている。たぶん、目の前にいる自分が、探している人間だと思考では理解しているんだろう。でも記憶がないので、初対面でしかない。初対面の、急に肉を焼いて出してくるやつ。まぁ、今日はそれでいいだろ。

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彼を探して (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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