第2話

『彼を探して』


 その文字だけが、携帯端末に映る。彼女の、ラップトップ。自分に残された、唯一の、手掛かり。


 彼女は、いつも忘れたくないことをラップトップの起動画面に書き込んでいた。冷蔵庫にメモ貼っておくみたいな感覚で。雑に書き込む。


「雑すぎるなこれは」


 自分を探す。それが、今の彼女のやらなければならないことリストなわけだ。

 顔も名前も覚えてないだろうに。


 自分は、違った。明確に、彼女の名前も、顔も、お互いの過ごした思い出も、ある。残っている。


 その代わり、彼女を探すことを禁じられていた。ばったり街中で出会でくわしても、彼女に声をかけることはおろか、彼女の視界に入るように移動することすらかなわない。


 任務だから。


 仕方のないことだった。このまま彼女が、自分のことを忘れて、生きていくなら。それはそれで、あきらめるしかない。


 少なくとも、今は。


 彼女のラップトップの起動画面に、彼を探してと書かれているうちは。まだ希望がある。

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