彼を探して (短文詩作)
春嵐
第1話
私と彼は、記憶を失った。
原因は分かる。理由も。記憶の取り戻し方も。分かる。分かるけど、簡単じゃない。
彼も、この街のどこかにいる。それでも、今すれ違ったところで、お互いを認識はできない。
「よし」
忘れてはいけないことだから。
ラップトップを開いて。いちばん目の前の、最初の起動画面に。でっかく書いて残しておく。
『彼を探して』
これでよし。これさえ忘れなければ。なんとかなる。なんとかなるんだ。ちぎれそうになる心を、この一文で押し留める。きっと、これから毎日、ずっと、ずっと、この状態が続くから。だから、これだけを忘れずにいる。それだけを心に決める。
さて。今日も任務。
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