第3章 家族のかたち 其の3

 "コンコン"

 ヒメリカに水をやり終えて少し経ってから、病室のドアがノックされる。

「失礼します。」

 看護師さんが入ってきた。おそらく20代くらいの若い女性だ。

「あ……!ホリー・ブラッド様!お気付きになられたのですね!よかった……!」

 看護師さんは安堵の表情を浮かべている。

「私、看護師のヨースミ・ルモンと申します。ブラッド様のご退院まで対応させていただきますので、よろしくお願い致しますね。」

「あ、はい、こちらこそよろしくお願い致します。」

 ルモンさんは笑顔で挨拶をしてくれた。

 ……それにしても、何だろう。彼女に会うのが初めてではないような……。

「あの……以前どこかでお会いしましたでしょうか……?」

「……はい。私は一度ブラッド様……いえ、地球立狂人病研究所ちきゅうりつきょうじんびょうけんきゅうじょアメリカ支部の皆様とお会いしているのです。」

「え……私たち全員と……?」

「……あぁ、俺たちは先に話を聞かせてもらった。ルモンさん、是非ホリーにも話を聞かせてやってくれませんか。」

「私からもお願いします!」

 フィンとストロがルモンさんに頼む。

「もちろんです、かしこまりました。」

 ルモンさんは快諾し、私に話し始める。

「……去年の5月、私はバーサーカーに襲われたんです。」

「バーサーカーに……?」

「はい。そして、その時に私の元へ来てくれたのがバットさんとキャスケットさんでした。」

 ルモンさんは続けて話す。

「バーサーカーに一方的に殴られて蹴られて……脚の骨も折れて、額からは血が止まらず、本当に絶望の状況でした。」

「そこへフィンとストロが駆けつけた……と……。」

「ええ、その通りです。そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さでキャスケットさんがバーサーカーの眉間を撃ち抜いたんです。」

「私……本当に夢中だったんだね……。」

 ストロが少し苦笑して言った。

「その後、すぐに救急隊と……そしてブラッドさんが駆けつけてくれて。『がんばって!バーサーカーはもういない!病院までもう少しの辛抱だから!』って、救急車の中で私を励ましてくれて……。本当に……皆様には、うぐっ……感謝しても……しきれなくて……!」

「……去年の5月……もしかして、バーサーカー化したのは……あなたの……。」

 当時の状況を鮮明に思い出す。その時の被害者の顔は血で真っ赤に染まっていて、どんな人か全くわからなかったけれど……。

「そうです、私の友人です。カフェでコーヒーを飲んでいると、突然友人が狂人病きょうじんびょうを発症して……私はパニックになりました。逃げるべきか反撃するべきか、それさえもわからずに、あんな大怪我を負ってしまって……。」

「そう……だったんですね……。それでは、我々はあなたのご友人を……。」

「いえいえいえ!そんなことは全く思っておりません!むしろ、アメリカ支部の皆様は私の命の恩人……そして、私の……心の誇りなんです。」

「ルモンさん……。」

「あのような状況でも果敢にバーサーカーへと立ち向かうバットさんとキャスケットさんの勇気、そして、未来のために狂人病きょうじんびょうの研究を続けられているブラッドさんの知識と誇り……。」

「ボクもいるよ!」

「ふふ、それとラッピーの健気な心。それらが全て私の生きる希望なのです。」

「こうやって、俺たちの仕事に感謝してくれている人だっているんだ。少しは自分を誇ってもいいのかもしれないな。」

 フィンは少し微笑んで言う。

「本当に……あの時はありがとうございました……!皆様……本……当……に…み……な……あ……あああああああああああああ!!」

「ルモンさん!?」

 ま……まさか……!

「まずい!【狂人病きょうじんびょう】だ!」

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