第2章 生きねばならぬ 其の6

 司法解剖の結果、異常なし……そう、過去50年にのぼる記録も全てが【異常なし】なのである。

 これはどういうことなのだろうか……?

「つまり、狂人病きょうじんびょうの根源など存在しない……?」

 いや、突拍子もない考え方なのかもしれない。

 何の原因も理由もなく人が突然理性を失って見境なく破壊行為を続けるなんてあり得ないのだから。

「だけど……そう考えないと……納得できない……!」

 そして、これもまた何の根拠もなく結論が飛躍してしまうのだが、人智の及ばないような力……たとえば930年前に消えたはずのヴァンパイアがどこかに現れて人間を操っているとか……そういったものが要因となっていたり……。

「……いや、そんな無茶苦茶なこと……。でも、そうとでも考えないとここまで本当に何の成果もないことの説明がつかないし……。」

 頭が痛くなってきた。

 ……ひとまず私の仕事は完了した。フィンとストロに報告に行こう。


「あ!所長ー!」

 ストロが大きな声で私を呼ぶ。

「随分と手間取ったんだな。おまえがラボに入ってから丸1日以上経っているぞ。」

「え……そ、そんなに……?」

 フィンに言われて私も驚く。

「ホリー、お疲れ様。ヒメリカにはフィンが水をあげてくれたよ。」

「ラッピー……ごめんね、一緒に遊んであげられなくて。」

「ううん、ボク大丈夫だよ。ほら、今日こそはホリーが水をあげて!」

「ありがとう、ラッピー。それじゃあ、水を汲んでくるね。」

 昨日ラッピーと果たせなかった約束のため、私は水道の方へ歩く。

 しかし、その時……

「うぅッ……!?」

 頭痛と吐き気が……ダメだ……立っていられない……。

「所長!?」

「おいっ!大丈夫か!?」

「ホリー!」

 意識が朦朧とする中、みんなが私の元に飛んでくる。

「だ……大丈夫……ほら……ちゃんと……立……て……」

 ダメだ……やっぱり起き上がれない……。

「ホリー!しっかりしろ!……ストロ!おまえは大至急救急車を呼んでくれ!」

了解ラジャー!」

「ホ……ホリー!ホリー!うわーん!!」

 みんなが……慌てている……私が……しっかり……しないと……。

 わ……私……どうなっちゃうの……かな……。

 ラッピー……ごめんね……また約束……守れないかも……。

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