第2章 生きねばならぬ 其の4

 私はストロ・キャスケット。地球立狂人病研究所ちきゅうりつきょうじんびょうけんきゅうじょアメリカ支部のメンバー。射撃の腕を買われて、2年ほど前に東京支部より異動してきた。

 そんな私はついさっきバーサーカー討伐の任務を遂行し、研究所に戻ってきた。

 ……相棒のフィンも言っていたけど、本当にクソッタレな仕事だよ。支部のメンバー全員(といっても自分を含めて3人と1匹だけど)が優しいことが、せめてもの心の救いになっている。

 ……そんなことを考えていると、エントランスの扉が開いた。

「ストロ、本当にお疲れ様。よく頑張ってくれたね。」

「所長……。」

 彼女はホリー・ブラッド。私が最も尊敬する、この研究所の所長だ。

「所長……所長……う…う…うぅ……わーん!!」

「ストロ……。本当つらかったんだね。よしよし、思いっきり泣いていいんだよ。」

「ご……ごめんなさい、所長……!私……私、所長にずっと甘えてばかりで……!」

「ううん、そんなことないよ。ストロのおかげで私やフィンは助かってるんだよ。ほら、今回の仕事だって……。」

 今回の仕事……。バーサーカー化した10歳の男の子の討伐……。

 そう、私は10歳の子供を殺した。

 フィンが襲われたから、咄嗟にその子の眉間を1発、私の得物で撃ち抜いた。

「うん……ありがとう……。」

 口ではお礼を述べるけど、心ではやっぱり喜べない……。

 私は総合射撃術の世界大会で4年連続優勝という記録を持っている。

 そんな輝かしい記録が……まさに真っ赤な血で穢れたクソッタレな仕事に活かされるなんて……。皮肉なんてものじゃないよ……。

「……余計なことを言っちゃったかな、ごめんね。」

 そして所長はやっぱり私の考えを見抜いている。

 でも……私は所長のそういうところが大好きだ。

 誰よりも優しくて、誰よりも暖かくて、それに……こんなに綺麗で……一緒にいるとなぜか胸がドキドキして……。

「ストロ……?」

 いやいやいや、私ったら何を考えてるのかな!

「ううん!何でもないの、ボーっとしちゃってごめんね!なんかさっきのフィンみたいだね!そうそう所長、これから何か私にできることはある?」

「うん、さっきフィンにも伝えてきたけど、2人は先に休んでいて。ラッピーも遊びたいみたいだし。」

「あ……うん、わかった!……気を遣ってくれてありがとう、所長。」

「大丈夫、ここから先は私の専門だから。あの子のためにも、早く研究を進めないと。それじゃあ、私はラボの方に行ってるね。」

「うん、行ってらっしゃい!頑張って……!」

 所長は先に研究所を出て行った。

 本当は……もう少し所長と一緒にいたかったな……。

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