第2章 生きねばならぬ 其の3
「……というわけなんだ、ホリー。」
「まさか……子供……!?」
私もフィンと同様、目の前にある想定外の現実に戸惑った。
しかし、その
少しの沈黙ののちにフィンが口を開く。
「あのあとこの子の母親と話した。『致し方のないことです』って、理解を示してくれたよ。いちばんつらいのは家族なのに……!」
フィンは涙を流しながら私に話してくれる。しかし、そこからさらに私は思いもよらぬ残酷な現実を知る。
「……明日が誕生日だったらしい。」
「……え?」
「母親が涙ながらに話してくれた。『明日はこの子の11歳の誕生日だったんです』って。」
「うそ……。」
「『友達を呼んでパーティーをするんだ』って、ずっと楽しみにしていたらしい。……本当に、現実というものは闇よりも暗いな。」
「……。」
言葉が出てこない。その現場でこの子を殺さなければならなかったフィンとストロ、そしてこの子自身とその家族の気持ち……。察するに余りあるなんて言葉では到底足りない。
「……すまないな、ホリー。現場にいなかったおまえにまでこんな話をしてしまって。俺らしくもないかもしれないが……俺とストロだけで抱えるには事があまりにも重すぎてな……。誰かに話さずにはいられなかったんだ……。」
「フィン……。」
当たり前だ。むしろ残酷な現場で気丈に戦っている2人を私なんかがどうして責めることができようか。
「ありがとう、全て話してくれて。」
「ホリー……。」
「ラボでの研究はこれから私に任せて。大変だったでしょ、フィンは先に休んでて。これは業務命令だよ。」
「……そうか、本当にすまんな。」
「ストロは研究所の中にいるんだよね。私の方から声をかけておくから。2人でラッピーと遊んであげてて。」
「……わかった、ありがとう。」
今私からできる気遣いはこれくらいしかない。2人の勇気を無駄にしないために、そして何よりこの子やその家族のために、私は研究を進めなければならない。
「それじゃあ、私の方も一仕事頑張ってくるね。」
私は研究所内にいるストロの元へと向かった。
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