第2章 生きねばならぬ 其の1

 俺はフィン・バット。地球立狂人病研究所ちきゅうりつきょうじんびょうけんきゅうじょアメリカ支部の副所長だ。

 先ほどバーサーカーが現れたとの報を受け、相棒のストロ・キャスケットと共に車でその現場へと向かっている。

「ストロ、もうすぐ着くぞ。何があってもいいように万全の準備をしておけよ。」

「わかってるよ、フィン!私だって何年もこの仕事をやってきているんだから……同じことを何度も言わなくたってわかるよ……。」

 ストロは少し怒ったように返事をしたかと思うと、すぐに表情が暗くなり、その眼には涙が浮かんでいた。

 何年も……か……。つまり俺たちはそれだけ人を殺し続けているということ……。

「すまんな、ストロ。おまえの気持ちを察してやれなくて……。」

「大丈夫、フィンだってつらいのを必死にこらえているの……私にもわかるから……。」

 ストロも相当なベテランだが、任務のたびに少しずつ元気が失せていっているような気がする。

 俺だってそうだ。

 相手がいくらバーサーカーとはいえ、ついさっきまで人間だった者たちだ。任務のたびに殺人というあまりにも重すぎる罪をひとつ、またひとつと背負うことになり、しかしそれが一切の罪に問われないという罪悪感。まともじゃいられなくなってしまいそうだ。

 本当に、この仕事だけは死ぬまで慣れるようなことはないだろう。

「やっぱり……クソッタレだな。」

「……え?」

「いや、なんでもない。……ほら、着いたぞストロ。どうやらこの家だな。」

「私はもう準備万端だよ。でも……やっぱり嫌だな……。」

「……そうだな。俺もだ。」

「だけど……私たちがやるしかないんだよね……。」

「……そうだな。」

「……車を降りようか。」

 今日は珍しくストロの方から車を降り、俺もすぐあとから着いて向かう。

 当然のことながら、俺もストロも足取りは重い。……本当にロクでもない仕事だな。

 そして俺たちは現場の家の玄関先で立ち止まり、息を整える。

「……いくよ。」

「ああ。」

 そう言い合って、ストロが弦間チャイムのボタンを押す。

 "ピンポーン"

 間もなく内側よりドアが開けられ、俺たちはその光景を目にするのだが……。

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