第1章 人間の光 其の5
「あぁ、ラッピー……起きてきたんだね。」
私の後ろから話しかけてきたのは、研究所のペットというかマスコットというか癒し担当というか……まぁそれはともかく、ラッピーという名前の【イコ】という生物。
つい100年ほど前に地球で発見され、ちょうどイヌとネコの中間の特徴を持っており、今では愛玩動物として広く親しまれている。そしてなぜか直立二足歩行で喋れる。
「最近ずっとホリーもフィンもストロも元気がないから心配だよ……。ボクのお肉とミルクを分けてあげるから少し休みなよ。」
「ありがとうラッピー。でもそれはラッピーのご飯だから、ラッピーが全部食べていいんだよ。気持ちだけもらっておくね。」
「ホリー……。」
ラッピーは少し哀しげな顔をしている。
しかし……こうしてイコにも心配される始末か……。長い間研究を進展させられない自分が余計に情けなくなってしまう。だけど、こんな状態で考え続けてもきっと何も進まないか……。
「……そうだねラッピー。気分転換に少しだけ休もうか。」
「うん!ボク、ホリーと少し庭に出たいんだけど、いいかな?たまには外の空気も吸わなきゃね!」
私が休むと言った途端にラッピーは満面の笑みを浮かべて言った。
「わかった、いいよ。」
そう応えるやいなや、すぐにラッピーは私の手を取ってエントランスへと向かい、そして庭へと走っていく。研究所敷地内の庭とはいえ、私が外に出るのは何日ぶりだろうか。ずっとカンヅメになっていたものだったから……。
「ボク、庭のヒメリカの成長を毎日見るのが楽しみなんだ!ほら、この辺りとかもうすぐ花が咲きそうだよ!」
「本当だ。全部綺麗に咲いたらいいね。毎日ラッピーがお世話をしてくれていて本当に助かっているよ。」
「うん!」
【ヒメリカ】とは、太陽が消失してから発見された植物の一種で、9月の下旬頃になると一斉に綺麗な赤い花を咲かせる。私の大好きな花だ。(ちなみに、月日や年の概念は太陽が消える以前から変わっていないようである)
「そうか……もうそんな時期か……。」
そう、9月の下旬……正確には、930年前の9月30日に太陽が消失したという。
……気分転換で外に出たはずが、また研究のことを思い出してしまっていた。自分でもよほど執着してしまっているんだなと感じる。
「ホリー……?」
ラッピーが少し心配そうな顔で私の方を見上げる。
「ううん、何でもないよ。それじゃあ今日は私がヒメリカに水をあげようか。」
「本当!?やったー!嬉しいな!」
そして私が庭に出ている水道まで行こうかと思ったその時……
「おいホリー!!大変だ!!急いで【ラボ】を開けてくれ!!」
青ざめた顔でフィンが慌てて私の方へと駆けてくる。
「どうしたのフィン!?大丈夫!?ストロは!?」
「ストロなら大丈夫だ、先に研究所の中で待っている。それより早くこっちへ来てくれ!!」
あのフィンがこれほどまでに取り乱すなんて……一体何があったのだろうか。
「ホリー……ボク、庭で待ってるね。お仕事が終わったら、またヒメリカにお水をあげてね……。」
「ラッピー……。せっかく庭まで誘ってくれたのにごめんね。」
「ううん、ホリーは悪くないよ。」
「うん、ありがとう……。」
ラッピーには申し訳ないが、どうやら
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