第1章 人間の光 其の4

 今より930年前、突如太陽が消失したことは先に話した通りだが、それとは別に奇妙な伝承が残っている。

 "【ヴァンパイア】と呼ばれるヒトならざる者たち存在の襲撃から人類を護り抜いた英雄【アダク・ルヴィー】"

 小学校の歴史の授業でも教わる有名な逸話だ。

 しかし、この伝承には不自然な点が多い。

 まずはヴァンパイアの存在。

 ヴァンパイアという呼称と、太陽に弱かったということ以外には一切の記録が残っておらず、容姿や生態等、何もわかっていない。

 また、【襲撃】と言われてはいるが、それもまた具体的な内容が一切わかっていない。

 しかし、それだけであれば相当昔のことである。記録が残されていなくても仕方のないことなのかもしれない。

 ただ、この伝承とは別として、偶然とは思えないような事件が時を同じくして発生している。

 まずは、アダク・ルヴィーがヴァンパイア撃退直後に突然の失踪を遂げたという記録がある。

 世を避けるために姿を眩ませたのか、生き残ったヴァンパイアによる報復なのか、自殺なのか、はたまた彼を恨む者による他殺なのか……。

 いずれにせよその理由はわかっておらず、ルヴィーの遺体等も発見されていない。

 そして、もうひとつの事件……やはりそれは【太陽の消失】だ。

 ヴァンパイアの撃退、ルヴィーの失踪、そして太陽の消失……それらは全て同じ日に起こっているというのである。

 はたしてこれは偶然なのだろうか?

 実は、その疑問を解く鍵になるかもしれない仮説を私が独自に発見した。

 それこそが【バーサーカー】の存在。

 バーサーカー及び狂人病きょうじんびょうは、つい50年ほど前に発見されたもので、900年以上も昔のこととは一見関係がないように思えてくる。

 しかし、通常の人間ではあり得ないバーサーカーの弱点がある。

 それは【紫外線】。

 バーサーカーに紫外線を浴びせると、みるみるうちに身体が蒸発していくのである。

 かつて太陽からは紫外線が発せられていたという。

 そして、ヴァンパイアの弱点は太陽……これは無関係なことなのだろうか……?

 また、ルヴィーの妻の手記によると、ルヴィーが失踪する10日ほど前から彼は明らかに異常な行動を取っており、さらに日中はずっと家の中にこもりっきりで、外出は夜だけだったという。

 つまり、その時にルヴィーがバーサーカー化していたという線を否定できないのである。

 バーサーカーの弱点が紫外線であることは、私を含めたアメリカ支部のメンバーしか知らず、本部には秘密で進めている。まさに【裏の調査】なのである。


「だからと言って……やっぱりすぐに手掛かりが見つかるわけじゃないよな〜……。」

 そう思わず1人でぼやいてしまったところに、どこからともなく声が聞こえてくる。

「ねえホリー、最近無理しすぎてるよ。少し休みなよ……。」

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