第三章 魔王と女将の責務

第一話 帰れないし拉致されるし

 あれ、魔法陣が起動しない。


 ミリアにお別れの挨拶を済ませ魔法陣に魔力を流すが、魔法が発動しない。


 向こうに誰かいる?


 私の個室に誰か入った瞬間、この魔法は発動しない仕様になっている。

 リンかラン、もしくはミリネが中で見張っているのだろう

 魔法陣で帰宅は無理か。


 どうするかな?


 帰る方法は他にあるが、正体がバレるリスクがある。

 魔王軍しか知らない地下通路や途中で変装を解くという手もなくはない。

 だがもし誰かがついて来ていたが場合、私の正体がバレてしまう。

 リンやランのように完全に気配を消せる者はそうそう居ないだろうが、0ではない。

 

「どうするかな~」

「おい」


 そう思っていると、体格のいい男がこっちを睨みつけてきた。

 何だこいつ。

 何もしていないのに喧嘩腰なのが意味不明だった。


「どうしました?」

「お前、デミルだろ?」

「えぇそうですが、それが何か?」

「お前を拉致しろとの命令だ、おとなしく来てもらおうか」


 私が男の問いに答えると、手を握りニヤリと笑う。

 ここで暴れてもいいが、揉めることはなるべく避けたい。

 

「やめてください!! 誰か、誰か~!!」


 か弱い女性を演じ、周りに助けを求める。

 しかし、誰も助けてくれず兵士さえ見てみぬふりだ。

 

「さぁ、来てもらうぞ」


 そう言って口を塞いでくる。

 正直、触らないでほしいが今は我慢する。

 そうして私は路地裏に連れ込まれ口と手足を縛られ袋に詰められ運ばれる。

 

「先に楽しまなくていいんですかい?」

「別にいいさ、解放する前に楽しめばいい」

「やっほ~!! 久しぶりに楽しめる~!!」


 ……下種が。

 真犯人を見つけたら、即刻始末すると決め耐える。

 そうしてしばらく時間が経つと、どこかの地下室だろうか?

 音の反響が多い。

  

 少しして私は袋から顔だけ出される。


「何が目的!?」


 酷く怯えた演技でそう言い放つと、征服感からか汚い笑みを浮かべる男達。

 くだらない。

 こんなことして、何が目的なのだろうか?

 まぁ、おおよそは予想がつくが。


「目的は簡単だ、売り上げ金と店を売ってその金を俺達に渡すそれだけだ」

「店?」

「お前の店だよ、相当儲かってるんだろ?」

「そんなの出来るわけないでしょ」

「出来る出来ないじゃない、やってもらわないと困んだよ!!」


 弱気な私に怒声で威圧的に言い放つ。

 演技で涙を出したいが、流石にそこまでは私は出来ない。

 それを怯えて涙が出ないと思ったのか、大笑いする。


「ハハハ!! 見ろよこいつ、ビビって涙も出ないようだぞ」


 周りにいた男達も笑う。

 今すぐぶっ飛ばしたい気持ちだが、まだだ。


「とらえたか?」


 そう思っていると、後ろから声がする。

 影から予想通りの人物が目の前に顔を出した。



 

 


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