第8話 人族の情報

「それで、もう一つ聞きたいことがあるんだけど」


 聞きたい事、それはゼンの死についてだ。

 人族の中でなら情報がある可能性が高い。

 

「ゼンさんでしたっけ? 前魔王の……それなら少しだけ情報が……どこにやったかな~。あったあった、これです」


 彼女は報告書の束の本棚の奥にあった書類を取り出すと、私に見せてくる。

 書類に目を通すと、王国の軍の記録にウィン・リューという大貴族の詳細が書かれていた。

 ウィン・リュー……魔族との戦闘で人族の三英傑の一人だ。 

 頭脳明晰で彼の狡猾さには多くの魔族が煮え湯を飲まされたと聞いている。

 

「このウィン・リューがどうしたの?」

「ゼンが少し死ぬ前、ウィンは魔族軍の記述ではまっすぐ行くゼンに対し三英傑の一人豪傑のリュグナが立ちはだかったの」


 当時の事は私も後から聞いたが、3英傑の一人リュグナは戦闘力において人族最強と呼ばれている戦闘狂で魔王軍第二位のアルベラでさえ、手を焼いたとされる戦闘狂だ。

 

「リュグナとゼンの戦闘は壮絶を極め、結局両手両足の骨を粉砕され結局撤退させられたとなっているの」


 今の話までは私の知っている通りだ。

 ゼンはリュグナとの戦闘で勝利し、魔族側が勢いづいたきっかけでもあるのだから。

 

「だけど、ゼンは死亡した……理由は私の手下糸達で資料を確認したけど、どこにも詳細は乗っていなかったわ」


 ゼンの遺体は誰も見ていない。

 ゼンの率いた部隊は彼の選んだ精鋭だけでそれらの遺体もなくなっていたからだ。

 ただそこにあったのは争いが起こったであろう荒れた土地のみだった事と、魔王因子が私に移った事で彼は死亡したという事になっているだけだ。


「只、ウィンの動きが不自然で、本来彼は表舞台に出る事はないのに、前線に出ていたという記録があるの」

「え、でも魔族記には……」


 魔族記には彼の行動はまるでなく、前線都市で指揮をとっていたとされているはずだ。

 

「えぇ、だけど、おかしいのよ」

「おかしい?」

「ゼンは自身が動く作戦を精鋭にしか伝えないで有名だった、それに加えてウィンも表舞台にあまり出てこない……なのにこの時、


 それはおかしな話だった。

 ゼンの作戦は自身の信頼する部下にしか伝えない。

 加えて作戦は迅速かつ急即に行う為、気が付いた時にはもう終わっていることが多い事で有名だ。

 その精鋭も何人かは詳細や名前も知らない名無ロスト・ナンバーと呼ばれている。

 知っているのは側近の七鋭しちえいだけだ。

 七鋭は序列外に存在するゼンの集めし精鋭部隊だ。

 短刀のカナタ・大剣のマハト・賢魔のエルサ・狂魔のベレッタ・戦魔オルクス・防魔のフィオ・陰影のデゼルの七鋭は全員第四位以上の実力を有しており、特に戦魔オルクスや狂魔のベレッタはアルベラと同格の実力と言われている。


「そこからは魔族記の通り、ゼン達は消息不明となり現在の魔王ミラが王となった事で死亡だと認定されたわ」


 この頃のことは覚えている。

 魔王として覚醒したことで希望から絶望へ一気に叩き落されたのだ。

 忘れられるはずがない。

 

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