第5話 天使

「おいひ~!!」


 ミリアは饅頭をリスのように口いっぱいに頬張ると惚けるようにモグモグしている。

 その姿が酷く愛らしくて可愛らしい。


「ミリア」

「?」


 もぐもぐと可愛らしく食べているミリアの口元に着いた餡子を拭うと恥ずかしそうにそうに食べていた。

 可愛いな!! 全く!!

 

 ミリアが食べ終わるまでそれを見ていると、ノックする音が聞こえた。

 ここにノックする時はお客人が来ている時だ。 


「……はい」


 ミリアは饅頭を置き、彼女は服を整えそう言うと視線を扉に移した。

 先程の可愛らしい表情とは違い、その顔はいつになく真剣な面構えだった。

 

「失礼いたします、とある商人がミリア様にお会いしたいと」

「商人? 素性は?」

「確認済みです。 商会連合のモリス派のリグルス様です」


 リグルスと言えば、最近勢力を拡大している商人の名前だ。

 本来の私との面識は一度や二度だが、爽やかな金色の髪に蒼い瞳の好青年だった。

 対応はミリネがやっていたが、彼女曰く彼には何か黒いものが見えたといっていた。

 

「ちょうどいいです、お通ししてください」

  

 正直言って私は交渉術なんてものは無いに等しい。

 ミリネにも「お姉ちゃんは騙されやすい」と言われている程である。


「お姉ちゃん、どこ行くの?」

「私がいてもなんだし、外に出てるよ」

「別に構わないよ、むしろいてくれた方が安心かも」


 どういう意味だろうか?


「そこにいてくれるだけでいいから、お願いできる?」

「……わかったよ」


 正直、彼女の成長した姿を見れる丁度いい機会だと思い、待っていると再び受付嬢を押しのけて入ってくる。

 

「邪魔だな、さっさとどけよ」


 あっれ~?

 なんていうか、あった時と720度態度が違うくない?

 まるで別人かと思えるほど態度の悪い彼にあっけにとられる。


「初めまして、我が名はリグルス……貴殿がミリア殿かな?」

「あ~、えっと……」

「まぁいい、条件は聞いておるな」


 なんか、高圧的だな。

 もしかして、私の知らない所でミリネにもこういう扱いしてたんじゃないだろうな?


「私はミリアではありません」


 そう言って私はミリアに手を向ける。

 

「そっちのちんちくりんが?」


 ……あ?

 私の可愛い妹分をちんちくりんだと?

 わかってるじゃねえか。

 

 私は内心で納得しながら彼を見ていると、彼はミリアに詰め寄る。


「おいクソガキ」

「クソガキではありません、ミリアです」


 ミリアに圧を掛けている。

 こいつ、今すぐ処してやろうか。

 

「交渉するまでもなかったようですね」


 深く溜息を吐くと、ミリアはそう言った。

 すると、彼は笑っている。

 何がおかしいのだろうか?

 そう思っていると、リグルスは持っていた書類を彼女に渡す。


「これは何でしょう?」

「俺が独占で作っている地酒だ、これをこの値段で購入しろ」


 


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