第二章 城下町の女将編

第1話 城下町に

 転移を行い、ある街の宿屋の一室に着く。

 ここは私の経営している宿屋の一室だ。


 魔力を想像し、いつものデミルに変装する。

 下に降りると、私が経営を任せている魔族の少女ミリアが頭を抱えていた。

 

「おはようミリア、どうしたの?」

「あ~!! やっと帰ってきた~!! どうしたじゃないですよ~!!」


 私の事を見つけるや否や目に涙を浮かべながら抱き着いてきた。

 この子がこうなるって相当だな。

 ミリアは滅多に弱音を吐かないので、彼女がこうなるという事は経営面で相当辛いことがあったのだろう。

 

「ごめんごめん、それで何があった?」


 そう言って彼女のこれまでの経営面における実情を聞いていく。

 要約すると、最近この宿屋に嫌がらせが多発しているそうだ。

 それも魔王軍の配下だというのだから、私としても見過ごすことは出来ない。

 それの対応と急激な収入の低下で彼女は頭を悩ませていたのだという。


「あの人たち、酒飲んで暴れるし壊したものを弁償すらしてくれないし料金も払ってくれない、それに加えて守ってやってる代わりにその金払えって暴れててもう私、どうしていいか」


 そう言うと、ミリアは大声で泣き出した。

 ちょっと、大きくなりすぎたかな。

 今までは管理が行き届いていたが、行き届かなくなるとこういうのが増えるのだ。

 ちょっと、調査をしてみるか。


 さて、どうしたものか。

 周りを見ると、ぞろぞろと会計を済ましている。

 こんな状態でも来てくれるお客はありがたかったが、いつまでもこうというわけにはいかない。

 ちょっとお仕置きするか。

 

「ミリア、そいつらはいつもここに来るの?」

「? えぇ、いつも業務が終わるとこちらでのみに来ます。 今日は恐らく夕日が沈む時かな」


 夕刻か、現行犯で捕まえるにはまだ時間があるな。

 そう思っていると、二人の衛兵らしき男が堂々と入ってくる。

 この紋様、ディニス隊か。

 ディニス隊は魔王軍の一部隊だ。

 魔王軍の誇りと民の為にを掲げた一番規律の厳しい部隊だ。

 あ、こいつら死んだわ。


「早く酒出せよ、いい加減飲みたいもの位覚えろよ、俺達は魔族軍だぞ!!」


 あ~、駄目だわこいつらは。

 私の経験上、こういう奴らは口で言ってどうこうなるわけでもなく、逆恨みしてくるタイプだ。

 今回の行動を確認してディニスにそれとなく報告するつもりだったけど、無理か~。

 こいつらは魔族軍私達の名前を出した。

 それにその態度は民に顔向けできない。

 私は兵士二人に運ぼうとしている従業員のボトルを取る。


「おい貴様」


 そう言ってこちらを向く男の目に向かってボトルを浴びせる。

 すると、一瞬何が起こったかわからない顔をしていたが、酒を肌から含んだのか顔が真っ赤に染まっていた。


「お前、何しやがる!!」

「何しやがるとはこっちのセリフだ!! よくも私の可愛い従業員に散々なことしてくれたようだな」


 男に詰め寄りそう言うと、彼は剣を引き抜こうとする。

 本当に血の気が多いのだが、使いどころを誤っているな。

 仕方ない、少し注意しておくか。

 これでやる気なら仕方ない。


「やめておいた方がいいよ、それを抜いたら手加減は出来ないから」


 注意したのにな~。

 それを抜いてはもう死ぬしかない。

 殺し合いは命の奪い合い、刃物を抜いた瞬間じゃれ合いから殺し合いに替わるのだ。

 


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