第2話 思い出と今
「ミラ」
懐かしい声が聞こえる。
私は目を向ける。
懐かしい光景、蒼い髪の優しい瞳の青年がこっちを見ていた。
「おはよう、ミラ」
蒼い髪に優しげな瞳、体格は細目で魔族としてはやや筋肉が足りない細身の青年。
私の愛する人で大切な人……ゼンだ
「おはよう、お兄ちゃん」
私が目をこすりながらそう言うと、彼はクスッと笑う。
「よく眠っていたね、眠り姫」
「子ども扱いしないで」
そう言って彼の胸を叩く。
彼はいつもそうだ、私を子ども扱いする。
私がそれがたまらなく腹が立つ。
子供としてではなく、
「あはは、ごめんごめん」
「む~」
不満そうに見ていると、彼は立ち上がる。
「さて、それじゃあ行ってこようかな」
この先の光景はなんとなく覚えてる。
この後、ゼンは戦いの中で死ぬ。
そして私が魔王として覚醒するのだ。
「帰ってくるよね?」
あぁ、この後の光景は今でも覚えている。
行かせては駄目だ。
そう思うが、これは夢だ。
この光景は何度変えようとしても変える事の出来ない確定した事実なのだ。
「あぁ、必ず帰ってくるよ」
「約束だよ?」
そう言って私は小指を差し出すと、彼は小指を絡めてくる。
「あぁ、約束だ」
「嘘ついたら、許さないからね」
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ……絶対だ」
そう言うと、私は彼を抱きしめる。
「甘えん坊だね、ミラは」
私は暫くして彼から離れると、笑顔を向ける。
「行ってらっしゃい!! お兄ちゃん!!」
そう言うと、彼は歩み出す。
死地へ向かって。
この時の私は見送る事しかできなかった。
目をあける。
……最悪だ。
あの夢を見てしまうなんて。
「お兄ちゃん……」
涙があふれてくる。
もうあの優しい瞳で見てくれることも、声さえも聴くことができない。
あるのは思い出の中の彼だけ。
会う事も抱きしめる事ももうできない。
涙があふれてくる。
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
布団の横からミリネが心配そうにこちらを見る。
「怖い夢でも見たの?」
「うんうん、とっても優しい夢を見たの、懐かしくてそして暖かい夢」
「……そっか」
ミリネはそれ以上何も言わず、起き上がる。
そして服を着ると、朝食の準備をしに部屋を出て行く。
私も服を着替え、下に降りて洗顔と歯磨きを行う。
そして台所へ向かうと、ミリネが食事を並べていた。
「顔は洗った?」
「うん」
「歯は、磨いた?」
「うん」
「じゃあ早く食べて」
そう言い、私は席に着き「いただきます」と言って彼女の作ってくれたご飯を口にする。
この子は何でもできる。
料理家事洗濯執務どれにおいても完璧なのだ。
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