第305話 ワイバーンの巣
ユーリに抱きかかえられて山を運搬されること五分弱。
事前に聞いていた情報通り……山の頂上付近にあるワイバーンの姿を発見した。
そこにいたワイバーンは一匹、二匹ではない。頂上にあるカルデラのような窪みに巣があって、その周囲を無数のワイバーンが飛んでいるのがわかった。
「おお、食べ放題だな! いっぱいいるぞ!」
「そんな感想が出るお前が怖いよ、ユーリ」
岩陰に身を潜めながら、レストが緊張感のないユーリに溜息を吐いた。
頂上にいる無数のワイバーン……なるほど、確かにアレを全て狩ることができれば食べ放題だ。何百人、何千人にだってワイバーン肉を振る舞うことができるだろう。
だが……レストは別にワイバーンを絶滅させたいわけではないし、食べ放題の焼き肉屋を開業したいわけでもない。
あくまでもパーティーに出す食材を探しに来ただけである。
「どうせ持ち帰れはしないし、一匹で良いんだよ。アレだけの数を相手にするとなるとかなり面倒だぞ」
最低でも百匹以上はいるであろうワイバーン……彼らを全滅させることは可能といえば可能である。
例えば、【炎産神】を撃ち込めばまとめて消し去ることができるだろう。【天照】を使って薙ぎ払っても良いだろう。
しかし……そうなれば、食材は手に入らなくなってしまう。本末転倒である。
「だけど……一匹を攻撃すれば、たぶん他のワイバーンも攻撃してくるよな。結局、全てのワイバーンを相手にすることになってしまう。どうにか、群れに気がつかれないようにかすめ取ることができれば良いんだけど……」
上手い具合にワイバーンが群れから出るのを待っても良いが、すでに夕刻が近い時間である。巣に戻ってくるワイバーンはいても、巣から出ていくワイバーンはいなかった。
ガイドもいなくなってしまったことだし……できれば、早々にワイバーンを狩って引き上げたいところである。
レストが考え込んでいると、ユーリが「よしっ!」と頼もしく胸を叩いた。
「だったら、私が囮になろう! その隙にレストがワイバーンを捕まえて逃げてくれ!」
「は……いやいやいや、ダメだ絶対に!」
論外の提案にレストが慌てて両手を振った。
「囮だなんて……そんな危険なことをさせられるわけないだろうが!」
「何故だ? 私の脚だったらワイバーンからも逃げてみせるぞ?」
「いくらユーリの逃げ足が速かったとしても、そんな危険な目には遭わせられない。自分の妻になる女性を囮役になんてできるわけないだろう?」
レストが当然だとばかりに言い切ると、ユーリが「はうっ……!」と心臓の辺りを手で押さえた。
「今のはときめいたぞ! ドキドキだな!」
「それは良かった……」
「ご褒美にハグをしてあげようか? ちょっとだったら、おっぱいも触って大丈夫だぞ?」
「ノーサンキューだ……お前のハグにはもう懲りたよ……」
先ほど、抱きかかえられて強制的に運搬されたばかりである。あんな人力ジェットコースターは二度と御免だった。
胸を触っても良いというのは魅力的な誘いだが……ローズマリー姉妹にバレたら怖いので、結婚まで自重させてもらう。
「でも……囮作戦というのは意外と有りかもしれないな……」
「うん? レストが囮になるのはダメだぞ。絶対にダメだ」
「ああ、そのつもりはないよ……あくまでも陽動というわけだ」
レストはいくつかの魔法を頭に思い浮かべる。
ディーブルとの修行中に覚えた小技、学園の授業で習った魔法、そして結界術の権威であるジャラナ・メイティス師から教わった術。
それらを応用させれば……ワイバーンの群れに追いかけられることなく、任務を達成することができるかもしれない。
「いいか、ユーリ。よく聞けよ……かくかくしかじか」
「フムフム……なるほどな! かくかくしかじかだな!」
レストとユーリはしばし岩陰で作戦会議をしてから、ワイバーン肉を獲得するべく行動に移したのであった。
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