第304話 取り残された二人
ワイバーンが現れ、案内人であるリベリーがいなくなってしまった。
しばし呆然としていたレストであったが……いつまでもこうしてはいられない。しばらくして頭を再起動させる。
「……まあ、ここまで来ちゃえばガイドは無くても大丈夫だよな。うん」
すでに山の中腹に至っており、この山の地形も理解してきた。
時間はかかるだろうが……慎重に安全マージンを取って進めばそこまで危険はあるまい。
「ここからは特に注意して進もう……少しでも危険があると判断したら戻ることにする」
「ああ、私は構わないぞ。それにしても……ワイバーン、大きかったな」
ユーリが頷いて、わずかに眉尻を下げた。
「今のワイバーン……逃がしてしまって惜しかったな。あそこで倒しておけば良かったなのに」
「ああ……まったくだよ」
突然の襲撃に防御を優先させてしまった。
あそこで襲ってきたワイバーンを倒しておけば、収穫を持ってそのまま帰ることができたものを。
「まあ、終わってしまったものは仕方がないな……ここから、【気配察知】に集中させてもらおう」
レストは神経を集中させ、【気配察知】の範囲を広げていく。
十メートル、二十メートル、三十メートルと知覚範囲が広がっていき、いくつもの気配がレストの脳内に飛び込んでくる。
【気配察知】を広げれば広げるほど、脳にかかる負担は大きくなってしまう。いくら魔力量があってもこれはどうにもならない。
あまり広範囲にしたくはなかったが……先ほど見たワイバーンの速度を考えると、広めにとった方が安心である。
(野生動物の気配も多い……一定以下の魔力量の気配をカット。強い魔物の気配だけに集中する……)
余計な情報を切り捨てて、必要な情報を取捨選択。
少しでも脳にかかる負担を減らし、レストはようやく一息を吐いた。
「よし……進もう」
「ああ、行こう…………レスト、やけに歩き方がヨチヨチじゃないか?」
登山を再開させる二人であったが……やたらと歩みの遅いレストに、ユーリが不思議そうな顔になった。
「仕方が無いだろう。魔物の気配を探るのに意識を使いすぎて、足元まで回らないんだ」
キャパオーバーというやつである。
魔物の気配に注意を向け過ぎたことで、歩行という動作に支障をきたしていた。
平坦な道であればまだしも……不整地を歩くのはままならない。速度を緩めなければ、すぐにでも転倒して山を転がり落ちてしまうだろう。
「ああ、なるほどなるほど。そういうことか」
レストの説明を聞いて、ユーリが納得したように手を合わせた。
そして……レストの身体を引き寄せてグイッと抱えあげて、お姫様抱っこで抱えあげる。
「だったら、私が運んでやろう。任せておけ!」
「それは助かるけど……運び方はもっと考えてくれないか?」
前にもこんなことがあったような気もするが……自分よりも小柄で細身の女性にこの運ばれ方をするのはちょっと情けない。
「それじゃあ、運ぶぞ! 泥船に乗った気持ちでいてくれ!」
「いや、泥船じゃ安心でき……うわっ!?」
「よーし、行くぞー!」
ユーリがレストを抱えたまま駆けだした。
猛スピードで山の斜面を駆けあがり、グイグイと高度を上げていく。
「ちょ、慎重に行けって……わあああああああああああああっ!?」
まるでジェットコースターに乗っているような速度と風圧に、レストが思わず悲鳴を上げてしまった。
レストの悲鳴を聞きながらもユーリは速度を緩めない。人を抱えているとは思えないスピードで斜面を駆けあがっていく。
「わあああああああああああああああああああっ!?」
それでも……【気配察知】を解除しなかった自分を褒めてあげたい。
途中で魔物との交戦をいくつか挟みながらも、レストとユーリはどうにか頂上近くまで到着することに成功したのであった。
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