第303話 鳥の魔物、そして……?
「ところで……どこまで行けばワイバーンがいるんだ?」
休憩を終えて登山を再開させつつ、レストが案内人のリベリーに訊ねた。
リベリーは周囲を警戒しながら先頭を歩き、振り返ることなくレストの問いに答える。
「ワイバーンの生息地はアルファ山の頂上付近です」
「アルファ山?」
「この山ですよ……南部山脈はいくつもの山々が連なっており、それぞれの山にちゃんと名前があります。山ごとに魔物のナワバリがあって、アルファ山にワイバーンの巣があるんです……あ、そこは滑りやすくなっているので足元に注意してください」
時折、注意を促しながら説明をする。
「ワイバーンは亜竜と呼ばれる魔物の中でも特に飛行能力に長けています。数は多くて、一匹一匹の数はそれほど強くはないですけど。あくまでもそれは竜種の中ではという話。並の戦士や魔法使いでは太刀打ちできない相手ですから、くれぐれも無理はしないでくださいね」
「ああ、わかっているよ。危なくなったら逃げるから心配しないでくれ」
ワイバーンを侮っているわけではないが……間違いなく、それよりも強い魔物を倒してきている。
そこまで心配はいらない……そう信じたいものである。
「この山にはワイバーンがいるんだよね? それじゃあ、別の山には別の魔物がいるのかな?」
ユーリが串焼きの棒を手の中で回しながら、無邪気な話しぶりで訊ねる。
「はい……そうですね、例えば隣のベータ山には大きな狼の巣があります。ガンマ山には猿の魔物、デルタ山には巨大カエルの魔物が主として君臨しています」
「その中ならカエルが美味しそうだな! レスト、時間があったら行ってみようか?」
「……うん、今日は止めておこうな」
あまり変な物ばかり腹にいれたくはない。
ワイバーンを狩ったら荷物も多くなるだろうし、ここはしっかりと拒否しておく。
「お、レスト。また魔物が出たぞ」
「ジャアアアアアアアアアアッ!」
耳障りな高い鳴き声を上げて出てきたのは鳥の魔物である。
やたらと目立つ極彩色の羽をしており、飛ぶことなく岩肌の地面を飛び跳ねながら接近してきた。
「デカい鳥だな……ニワトリやダチョウみたいに羽が退化して脚が発達しているのか?」
「美味そうだな。アレも食べようか!」
レストとユーリが身構える。
二メートルほどの身長の鳥の魔物は機敏なスピードで岩肌を跳ねながら、大きな足で飛び蹴りを放ってきた。
「【土壁】」
地面から飛び出した土の壁が蹴撃を受け止める。
弾かれた鳥の魔物はすぐさま転身して、再び攻撃を仕掛けようとするが……それよりも先にユーリがその胴体を蹴りつけた。
「エイッ!」
「ジャアンッ!?」
鳥の魔物が短い悲鳴を上げながら、岩肌の上をバウンドしながら転がっていく。
それなりに重い一撃が直撃したはずだが……しかし、すぐに起き上がって憎々しげにレスト達を睨みつけてきた。
「ジャアアアアアアアアアアアッ!」
「へえ……意外とタフだな」
ユーリの蹴りは人間の頭蓋骨をグチャグチャにできるほどの威力がある。
それがクリーンヒットしたにもかかわらず、鳥の魔物は問題なく動いていた。
「見た目によらず、結構な大物かもしれないな……ユーリ、油断するなよ!」
「わかっているとも! さあ、今夜の晩ごはんを……」
改めて、獲物を狩ろうとする二人であったが……直後、大きな影が差した。
同時に【気配察知】に反応。頭上に魔物の気配が出現する。
「隠れてください!」
「伏せろ!」
「ヒャッ……!」
案内人のリベリーが声を上げて、レストもすぐさまユーリの頭を押さえて地面に押し倒す。
魔法で土の壁を出現させて、自分達の身体を覆って身を隠した。
「ジャアアアアアアアアアアアッ!?」
「ギャウッ! ギャウッ!」
そんな彼らの前に大きな魔物が降り立った。
両翼を広げた巨大な魔物……トカゲのようなフォルムであるが、コウモリのように両腕が翼になっている。
「ワイバーン……!」
体長五メートルほどの魔物。アレがワイバーンだ。
ワイバーンは獰猛な牙で鳥の魔物に噛みつくと、そのまま空を飛び去ってしまった。
あっという間の出来事だった。もしも襲われたのが自分だったらと思うと、少しだけ肝が冷える。
「なるほど……腐っても竜種というわけか。なかなかのプレッシャーだな」
ワームやシーサーペントのような威圧感があった。
戦って負けるとは思わないが……それでも、油断できる相手ではなさそうだ。
レストは魔法を解除して土の中から抜け出した。
「すごかったな、レスト!」
「ああ、山の主だけあって強そうだ。アレの巣は…………え?」
リベリーの方を確認しようとするが……そこに彼女の姿はなかった。
周りを見回してみるが、やはり姿は見えない。
「もしかして…………逃げた?」
どうやら、リベリーは逃げ出してしまったようだ。
危なくなったら逃げて良いと契約を交わしていたが……決断が速すぎる。まだ戦いにもなっていないというのに。
「レスト、ガイドがいなくなってしまったぞ?」
「……そうだな」
山の中腹に取り残されて、レストは途方に暮れたように天を仰いだのであった。
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