第302話 登山開始
「【炎砲】!」
「エイッ! ヤッ!」
山に足を踏み入れた一行に魔物が襲いかかってくる。
翼の生えた蛇のような魔物をレストが魔法で撃ち落とし、落ちてきたところをユーリが蹴りで頭を潰す。
南部山脈は岩肌が露出している部分と木々が茂っている部分、そして雪化粧に覆われている部分が混じり合ったマーブル状の山々が連なっている。それぞれの部分に別々の魔物が生息しているため、かなりバリエーションの多い魔物と戦うことになっていた。
「飽きさせないな。勉強になるよ」
並レベルの魔術師であればそれなりに苦戦するのだろうが……レストとしては問題ない。
レストは魔力量が無限なのでいくらでも魔法を撃つことができるし、コピーの才能のおかげで使える魔法の種類も多い。どんな魔物が出てきても、相手に合わせた魔法を発動させることができる。
ユーリについては……生まれ持ったフィジカルと本能によってどうにかしている。
雪男のような猿の魔物が出てきても、大型の鳥の魔物が出てきても、地面から飛び出してくる巨大モグラが出てきても、危なげなく倒すことができていた。
「奥様に無理難題を突きつけられて修行させられた時のことを思い出すよ……いや、まったく。あの時と比べればまだマシか」
学園入学前の修業時代を思い出して、レストは苦笑した。
そんな一方でユーリは倒したばかりの翼付きの蛇を持ち上げて嬉しそうに声を上げる。
「レスト、この蛇は食べられそうだぞ! ちょっと休憩しよう!」
相変わらずのゲテモノ好きである。
レストの返事を待つことなく、ナイフを取り出して手際よく解体を始めた。
皮を剝ぎ、内臓を取り出し、返り血を顔に浴びながら迷いなく手頃なサイズに切り分けていく。
ちなみに……弁当として持参した岩トカゲの丸焼きはとうに食べてしまっている。レストは一口二口齧っただけで、大部分はユーリの腹の中に収まっていた。
「料理の腕、随分と上がったな」
「わかるか? プリムラやローズマリー侯爵家のシェフから色々と教えてもらったんだ! この蛇は……そうだな、刺身で食べるのはどうだろうか?」
「生は勘弁してくれ……せめて、火を通してくれ」
「わかったぞ。それじゃあ、串焼きにしよう。火を起こしてもらえるか」
「了解だ」
レストが適当な木の枝を集めて、魔法で火を点けた。
ユーリが串に刺した蛇肉を焚き火にかけている。
「…………」
そんなレスト達にとってはいつも通りの光景を目にして、山脈の案内人であるリベリーが唖然とした様子で言葉を失っていた。
「どうかしたか?」
「いえ……ワイバーンを討伐すると言っていましたが、本気なのですね」
「……冗談だと思っていたのか?」
「いえ……そういうわけではありませんけど……」
リベリーが口ごもる。
彼女が戸惑っているのはレストとユーリの実力を目の当たりにしたからだろう。
当初、リベリーは二人が自分の実力を過信して、無謀にもワイバーンに挑もうとしているのだと考えていた。
しかし……少なくとも、二人にはこの山脈の魔物を危なげなく撃破できるだけの実力があった。ワイバーン討伐を目指すというのもあながち無茶でもないと考えを改めたようである。
「ガイドのお姉さんも食べる? 美味しく焼けたよ」
ユーリが焼き上がったばかりの蛇の串焼きを掲げる。
悲しいかな……確かに、それはとても美味しそうだ。見るからに脂が乗っており、ジューシーな匂いが立ち昇っている。
「ほら、レスト。食べて良いぞ」
「…………ありがとう」
ユーリが串焼きをグイッと押しつけてくる。
レストは顔を引きつらせながらも串焼きを受け取った。
「…………」
ユーリがジッと見つめてくる。何かを期待するかのように。
仕方が無しに口に運ぶと……ジワッと旨味が口の中に広がっていく。
「……美味いよ」
塩を軽く振っただけの味付けだというのに、驚くほど美味い。
何も知らずに出されたら焼き鳥と勘違いしていたことだろう。
「良かった! さあ、お姉さんもどうぞ!」
「…………………………はい」
リベリーにも串焼きを渡して、ユーリも美味しそうに頬張った。
ゲテモノ好きではあるが……やはり、ユーリの味覚にハズレはない。
三人は魔物肉の食事を食べながら、束の間の休憩をしたのであった。
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