第301話 南の山脈
次の日、さっそくレストは南の山脈を訪れた。
いくつもの山々が連なっている山脈は麓から見上げても雄大な景色が広がっており、いくつかの山は雲を貫くほどの高さがあって雪化粧も見える。
「これは……すごいな。想像していた以上だ」
まるでヒマラヤ山脈である。
もちろん、レストは前世で見たことなどなかったが。
「ああ、久しぶりに来たな。相変わらず綺麗な景色だ」
同行してきたユーリがレストの顔を覗き込んでくる。
「私が案内をしてやるぞ。大船に乗ったつもりでいてくれ!」
「……いや、それはノーセンキューだ」
レストが首を横に振る。
山登りが楽しいのかウキウキ、ニッコニコのユーリであったが……レストは彼女を頼るつもりは毛頭なかった。
筋金入りの方向音痴であるユーリに道案内を頼むだなんて、大船どころか泥船である。一緒に遭難する未来しか見えなかった。
「麓の村でガイドを見つけたからな。その人に従って行こう」
「本日はよろしくお願いいたします。ガイドのリベリーです」
村で雇ったガイドの女性がペコリとお辞儀をする。
山脈の麓にある山には何人ものガイドがいて、山脈の案内が一つの商売として成り立っていた。
金を惜しんでガイド無しで山脈に入る人間もいるそうだが……その二割ほどが遭難して行方不明になっているそうだ。
「山は迷いやすいですし、魔物もたくさんいます。くれぐれも勝手な行動は慎んでください」
村で雇ったガイド……リベリーは二十代半ばほどの年上の女性だ。
ブラウンの髪を肩の長さまで伸ばしており、山焼けなのか小麦色の肌をしている。
ちなみに……リベリーにはレストとユーリが貴族であるとは話していない。変に畏まられてはかえって面倒だからだ。
「それでは確認なのですが……レスト様とユーリ様の目的は魔物狩り。ワイバーン退治でよろしかったでしょうか?」
「ああ、問題ないよ」
「うん、合ってるね」
「……失礼ですが、ワイバーンを倒せるだけの実力があるのですか?」
リベリーが探るように訊ねてくる。
その疑問は的確だろう。
レストとユーリはどちらも十代の男女。おまけに武器を身に着けていない丸腰だ。
ワイバーンは亜竜。魔物としてはかなり強い部類に入るため、身の程を知らない男女の無謀な挑戦と受け取られてもおかしくはない。
「俺は魔術師だから問題ないよ。こっちは……まあ、とにかく大丈夫だ」
「大丈夫だぞ、私達は強いからな!」
「…………」
レストとユーリの言葉に、リベリーはかえって苦い顔になる。
やはり、無謀で向こう見ずな若者として見られているようだ。
「ハア……まあ、報酬は前払いで貰っていますから案内はいたします。だけど、私は戦闘には参加いたしません。何があっても自己責任ですよ?」
リベリーが強めの語調で確認する。
ワイバーン討伐という目的を説明したところ、それが危険であることはしきりに説明された。
案内を断られはしなかったものの……何があっても自己責任。怪我をしたり死んだりしてもガイドは一切責任は取らないと、契約書まで書かされてしまった。
(まあ、無理もないよな……実際、俺もそっちの立場だったら無謀だと思う。俺達はガキで、ユーリは緊張感ゼロだし……)
「ああ、わかっている。もしもの時は俺達を置いて逃げても構わない」
「……そこまで言うのであればご案内いたします。くれぐれも、死にたくなければ私の言うことは聞いてくださいね」
「わかったぞ! あ、そうだ。私はお弁当を作ってきたんだ。レストの大好きな岩トカゲの丸焼きだぞ!」
「それを好物といった覚えはないが……また、おかしな魔物を獲ってきたんだな……」
「…………」
そんな緊張感のない会話を聞いて、またしてもリベリーが苦々しい顔をしていたのであった。
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