第300話 美食を求めて

「ほほう……珍しい食材ですか……」


 レストに問われて首を傾げたのはレストにとっての魔法の師……ディーブルである。

 たまたま、用事があってクローバー伯爵領を訪れていたので、ちょうど良いので食材について情報収集をしてみたのだ。


「ああ、なるほど。来月のパーティーに出す食材を探しているのですな。それでしたら幾つか思いつくものがあります」


 ディーブルは少しだけ考えてから説明してくれた。


「貴族のパーティーに相応しい食材は基本的に縁起物ですね。長寿や子孫繁栄などを祈願する食材が好まれます」


「なるほど」


 その辺りは日本と同じらしい。

 ゲン担ぎのような食べ物が好まれるようだ。


「最高食材とされるのはドラゴンの肉ですね。ドラゴンは最強の魔物であると同時に千年を超える年月を生きる長寿の魔物です。ドラゴンの肉を喰らうと不死の肉体を得るなどという伝説もあります……もちろん、滅多に市場に出るような物ではありませんね」


 ワームも広い意味でいうのならドラゴンなのだろうが……少なくとも、高級食材とは認定されていない。見た目も完全にゲテモノである。


「まだ手に入りやすい魔物肉としては『亜竜』、つまりレッサードラゴンの肉が良いですね。ドラゴンの肉は手に入りませんから、代替としてパーティーに出されることが多いです。ワイバーンなどの翼竜は『天に昇る』ことから立身出世の象徴とされています」


「ワイバーンか……この辺りにいたかな?」


「南の山脈に多く生息していますな。国境の山脈です」


 アイウッド王国は南側に大きな山脈が連なっている。

 その先にはいくつかの国が激しく派遣を巡っている紛争地帯があるとのことだが、山脈を越えることが困難なためほとんど交流はない。


「南の山脈か……行ったことはないな」


「あ、私はあるよー」


 横で話を聞いていたユーリが挙手をした。

 レストとディーブルが顔を見合わせ、首を傾げる。


「南の山脈だぞ? いったい、どうして……?」


「王都からもカトレイア侯爵領からも距離が離れていますが……?」


「うーん、前に学校がお休みの日にちょっとピクニックに行ったんだよね。王都の外をちょっとだけ散策するつもりだったんだけど、気がついたら山に入っちゃって。危うく遭難するところだったよー」


「…………」


 いや……ちょっと散策するつもりで山脈に迷い込んだのなら、それはすでに遭難である。

 いったいどうやったら、ピクニックのつもりで辺境の国境地帯に迷い込んでしまうというのだろう。


「そういえば……学園の授業を無断欠席したことがあったな。いったい、どうしたんだとクラスのみんなで話していたけど……まさか山に迷い込んでいたのか」


 改めて、ユーリの無鉄砲さと非常識っぷりに驚かされる。

 マンガのキャラクターのような方向音痴である。


「まあ、それはそれとしておきましょう」


 ディーブルが気を取り直したように咳払いをする。


「ワイバーン以外にも貴族が祝いの席に好む食材についてリストアップしておきましょう。ローズマリー侯爵家も用意するとは思いますが……手に入りづらい食材もありますので。酒については……そうですね、私に聞くよりもクロッカス公爵令嬢に聞いてみては如何でしょうか?」


「セレスティーヌに? どうして、また?」


「はい。クロッカス公爵は酒の好事家として有名ですし、領地にはワイン用のブドウ畑を持っていますから」


「なるほど……それは知らなかったな」


 思い返してみれば……前に訪れた漁村で蒸留酒を作っている話を聞いて興味を持っていた。父親の酒好きが理由としてあったのかもしれない。


「わかった。また聞いてみよう……悪かったな、邪魔をして」


「いえいえ、また何かあったら気軽に相談してください」


 レストは食材のリストを受け取り、ディーブルに礼を言ってその場を離れたのである。

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