第299話 新たなるミッション

 パーティーの日程は一ヵ月後に決まった。

 まだ準備には早すぎると思ったが、すでにヴィオラもプリムラも動き出している。

 貴族のパーティーは規模も大きいため、早めに準備を始めるのは珍しくないとのこと。

 屋敷では慌ただしく人が出入りして働いていた。


「さて……俺も動かないとな」


「何をするつもりなんだ、レスト?」


 横から訊ねてきたのはユーリだった。

 町を歩いているレストの周りをチョコチョコと犬のように歩きながら、あどけなく首を傾げてくる。

 ローズマリー姉妹がパーティーの準備のために動いている中、レストは暇そうにしていたユーリと一緒に屋敷を出ていた。


「二人がやけに張り切っているからなあ……正直、会場の設営とか料理人や給仕の手配とかはすることないんだよな」


 ヴィオラとプリムラは精力的に準備を進めていた。

 ローズマリー侯爵家から連れてきた使用人に指示を出し、活き活きとした様子で働いている。

 女主人としての初めての仕事だ。二人ともレストの出る幕が無いほど張り切っていた。


「まあ、俺は貴族のアレコレはわからないからな……変に口出しをするよりも二人に任せておいた方が的確なのは間違いないんだろうけど」


「ああ、私と一緒だな。私も貴族の作法とかルールはわからないぞ!」


「いや……お前はわかっておけよ。侯爵令嬢だろうに……」


 本当に……ユーリはカトレイア侯爵家でどんなふうに生活していたのだろう。

 初対面から感じていたが、貴族令嬢としてはあまりにも天真爛漫すぎる。


「それで町をぶらついて遊んでいるんだな」


「遊んでないよ……これから、ちゃんと仕事に行くんだ」


「仕事?」


「ああ、パーティーに出す料理の材料を調達しに行くんだ」


 パーティーにはたくさんの料理が出される。

 その材料、料理人はローズマリー侯爵家から送られることになっていた。

 だが……クローバー伯爵家にとっては初めてのパーティーだ。できれば滅多に食べられないような料理や酒を提供したいところである。


「何か手伝えることはないかって聞いたら、二人に珍しい食材や酒を探してきて欲しいって頼まれたんだ。それだけしてくれたら大丈夫だって」


「なるほど、なるほど……それは邪魔だから体よく追い払われたんじゃないのか?」


「…………」


 ユーリが痛いところを突いてくる。

 何となく、そんな気はしていた。

 パーティーの準備でやれることが何もないため、適当な用事を言いつけられただけなのではないかと。


「まあ、私はよくわからないから気のせいかもしれないけど」


「うん、まあ……な。あんまり深く考えない方が良い気はするな」


 レストは首を横に振って不穏な考えを吹き飛ばす。

 何はともあれ……ヴィオラとプリムラから頼まれたのだ。頼まれたからには全力を尽くさなくてはならない。


「珍しい食材とはいったものの……流石におかしな物を客人に出すわけにはいかないからなあ。ちょっと調べてみようと思っている」


「魔物の肉なんてどうだ? ワームとかお勧めだぞ?」


「変な物を出すなって言ったばかりだろうが……まあ、魔物食というのは有りかもしれないな」


 ユーリではないが、魔物の中には珍味とされて好んで食されている物がある。

 一部の人間にはゲテモノ扱いされているが……一品や二品、そういった料理があっても良いかもしれない。


「魔物を獲りに行くのなら手伝うぞ! 得意分野だ!」


「ああ……お前の食への嗅覚は信頼している。頼んだぞ」


「ああ、頼りにしてくれ!」


 ユーリがニッコニコの笑顔で言ってくる。

 やや悪食なところがあるものの……ユーリが美味いと言った物にハズレはない。きっと珍味の獲得に活躍してくれるだろう。


 パーティーの準備のため、課せられたミッションは珍しい食材の調達。レストとユーリは二人で食の追求を始めたのであった。

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