第289話 始まりの地

 クレイジーエイプの討伐が終わり、拠点となるべき場所を確保した。

 鎮火したのを見計らってクレイジーエイプの巣があった場所を探ったところ、そこには猿のものとは異なる複数の人骨があった。


「猿に捕まって食べられた冒険者とかだろうな……酷いものだ」


 ゴミのように捨てられている人骨には煤で黒くなっているものの、肉や皮の残骸すら見当たらない。火で焼けてしまったのではなく、骨までしゃぶられて完全な白骨だけになっていたのだろう。


「人間なんて、食べるところもさほど無いだろうに……本当に見境がないな」


 無数の人骨を見て、一方的に虐殺する形になったクレイジーエイプに対する最後の同情が消えた。やはり、彼らを殲滅したのは正解だったようである。

 もしも中途半端なことをしていれば、他所に逃げたクレイジーエイプが再び人を襲い、喰らっていたことだろう。

 残酷なことをしたとは思っているが……やはり、必要なことだったようである。


「この骨……身分を確認できるような物は見当たらないし、誰の物か特定は不可能だろう。いずれこの場所に寺院を作って慰霊碑を立てようか」


「そうですね……この方達も浮かばれると思います」


 レストの言葉に、隣で表情を曇らせていたプリムラが頷いた。

【気配察知】によって周囲を探ったが、クレイジーエイプの残党はいない。一匹残らず討伐することができたようだ。


「レスト、周りを確認してみたけど……やっぱり、この場所は拠点を作るのに適しているみたいよ」


「広さは十分。近くに水場もあったし、土壌も豊か。ここならば大きな町を築くことができそうだぞ」


 周囲を見て回っていたヴィオラとユーリが合流する。

 クレイジーエイプという魔物の存在さえなければ、この地は町を築くのに最適だった。

 土地の面積は十分。利便性に長けており、ローズマリー侯爵領からの距離も近くて、街道を整備すれば人や物の流れを作ることができそうである。


「魔物除けの結界を張って、土地と街道を整備して……ああ、そうだ。その前に土地の測量をしてもらわないといけないな。町の設計だって必要だし、専門家はそっちで用意してもらえるんだったっけ?」


「もちろんよ。ローズマリー侯爵家が最高の建築士を用意してあげるわ」


 ヴィオラが胸を張って、自信満々に宣言する。


「ここには何もないけれど……だからこそ、一から理想の拠点を築くことができるはずだわ。それは最大のメリットよね」


「ああ、俺もそう思うよ。何もないということが利点になることもある」


 ヴィオラの言葉にレストが同意する。

 ここに集落が築かれていたのであれば、既に存在する家や田畑に配慮して町を作らなくてはいけない。

 しかし、何もないということは、理想とする町を自由自在に築くことができるということである。


「どんな町を作りましょうか。とりあえず……比較的、高いあの位置に領主の館を作りましょう」


「ここに寺院を建てるとして、市場は向こう側……いえ、用水路を考えると、市街地は向こう側の方が良さそうですね」


「兵士達の鍛錬場も必要だろう。領主の屋敷から近い方が良いのではないか?」


 ヴィオラ、プリムラ、ユーリが口々に意見を述べる。

 彼女達も暮らすことになるであろう町だ。できるだけ、意見を取り入れさせてもらおう。


「レストは何か、希望はあるのかしら?」


「そうだな……一つ、考えていたことがある」


「あら、そうなの。教えてもらえる?」


「そうだな……可能かどうかはわからないんだけど、かくかくしかじか……」


 レストは三人に、前から考えていた町の案を話す。

 焼け焦げた魔物の巣穴跡。煤と煙の匂いに包まれながら、四人は暗い空気を吹き飛ばすように、未来への展望を語ったのであった。

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