第284話 開拓、再び

 翌日。

 ローズマリー侯爵家の談話室にて。

 そこにはレストと四人の女性達が集まって、今後のために話し合いをしていた。


 昨日まで楽しいデートを堪能したレストであったが……いつまでも遊んでいるわけにはいかない。

 貴族の本分は領地経営だ。そろそろ、本格的に領地の開拓に着手する必要があるだろう。


「すでに開拓に必要な物資と人手は集めています。アンドリュー殿下の方に取られてしまって、時間はかかってしまいましたけど」


「もちろん、私達も力を貸すわよ。レスト!」


「私もついているから、大船に乗ったつもりでいてくれ!」


 プリムラが説明をして、ヴィオラとユーリが頼もしく宣言した。

 これから、レストに与えられた領地……クローバー伯爵領の開拓に着手することになる。

 最初にやるべきことは本拠地となる町の建造。建設予定の候補地はローズマリー侯爵家が出してくれた調査隊が調べてくれた。


「私はやることがありますから、直接はお手伝いできませんが……何かありましたら、遠慮なくおっしゃってください」


 セレスティーヌが申し訳なさそうに言う。

 レストとの婚姻が内定しているセレスティーヌであったが、現時点ではクローバー伯爵家の関係者ではない。

 あくまでも、外部の人間として協力してくれるようだが。


「拠点の建設候補地ですけど……お父様が三つほどピックアップしてくれました。どれも町を建設するために十分な広さがあり、水場の確保もできています」


 プリムラがテーブルに地図を広げて、説明を続ける。


「レスト様はサブノック平原の北側に領地を持っています。ローズマリー侯爵領からも近い位置です。このうち、候補地は北、西、南の三ヵ所です」


 プリムラが地図に印を付ける。


「ローズマリー侯爵領から近いのは北側、当家から物資や人員を送りやすい位置です。王都から近いのは西側、長い目で見れば発展しやすいのはこの位置です。南側は特別メリットはありませんが、強いて言うのであればアンドリュー殿下の領地と近いので親しく交流できるかと」


 プリムラが顔を上げて、レストの顔を見る。


「レスト様。この三つのうち、どこに拠点を作りましょうか?」


「北側だね。一択だよ」


 レストは迷うことなく、断言する。

 躊躇う余地のない簡単な問題だった。


「ローズマリー侯爵領と近い方が良いに決まっている。何かあったら助け合うことができるし、ヴィオラとプリムラだって、帰省がしやすいだろう?」


「……ええ、そうね。ありがとう」


「ありがとうございます……嬉しいです」


 ヴィオラとプリムラのためを思っての返答に、二人が嬉しそうにはにかんだ。

 見つめ合って別空間を作っている三人に、セレスティーヌが小さく咳払いをする。


「コホン……説明を続けてくださいませ」


「ああ、失礼いたしました」


 気を取り直して、プリムラが説明を再開させた。


「それじゃあ、北側のポイントに将来的にクローバー伯爵領の領都になる拠点を建設するとして……問題が一つあります」


「問題?」


「はい。この場所には魔物の巣が確認されています。この場所に拠点を建造するためには、魔物を掃討しなくてはいけません」


「ああ、なるほどね。それはわかりやすい」


 元々が魔境である。

 人間が住みやすい場所には、魔物だって住みやすい。

 拠点に適した場所に魔物の巣があるのも、理にかなっている話だった。


「つまり、魔物を討伐すれば良いわけだ……デートプランを考えるよりも、ずっと簡単な話だな」


 魔物狩りならば得意中の得意だ。

 難しいことを考えなくても済む分だけ、シンプルで好みの展開である。


「今回は私も一緒に行くわね。守られるだけのお姫様じゃないってことを見せてあげるわ!」


「私もです……学園で勉強してきた魔法を活かす時がきました」


 ヴィオラとプリムラがやる気になっている。

 その隣では、ユーリも笑顔でシャドーボクシングをしていた。


「うん……まあ、無理しないようにな……」


 頼もしい三人の美少女に対して、レストは何故だか不安を感じてしまった。






――――――――――

限定近況ノートに続きのエピソードを投稿しています。

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