第283話 浴室の『四』女神
「それじゃあ、そのゴーレムは回収したのね? やっぱり、王宮の所有になるのかしら?」
「確定ではありませんね。もしかすると、レストさんに所有権が帰属するかもしれませんわ」
チャプンチャプンと水音が鳴る。
ローズマリー侯爵家のタウンハウス。その浴室では、艶やかな花が咲き誇っていた。
一糸纏わぬ姿で入浴しているのは、ヴィオラ・ローズマリー、プリムラ・ローズマリー、ユーリ・カトレイア、セレスティーヌ・クロッカスの四人である。
数時間前、レストと一緒に出かけていたセレスティーヌがローズマリー侯爵家にやってきた。
当主のアルバート・ローズマリーに話があったため、レストと一緒に来たそうだが……話が終わった頃には日が暮れており、侯爵家に泊まることになったのだ。
夕食を囲み、和やかに談笑した四人はそのままの流れで、一緒に浴室に入った。
タイプの異なる美少女の裸身が一堂に会する様は、まさに眼福。
女神が水浴びをしているような奇跡的な光景だった。
「そういえば……セレスティーヌと一緒に入浴をするのは初めてだな」
浴槽の中で手足を伸ばしながら、ユーリが嬉しそうに声を弾ませる。
「嬉しいな。ようやく、本物の友達になれたような気分だよ」
「そうですね、私も嬉しいですわ……気分としては、友達というよりも『姉妹』ですけれど……」
「……ああ、そうね」
セレスティーヌの苦笑に、ヴィオラが肩をすくめた。
「確かに……このメンバーはもうじき、姉妹同然になるわね」
「……皆さん、レスト様と結婚が決まっていますからね」
プリムラも困ったように首肯する。
この場にいる四人の美少女……彼女達はレスト・クローバーと結婚することがほぼ確定していた。
ヴィオラとプリムラは言わずもがな、婚約者である。卒業と同時にレストと結婚する。
レストがローズマリー侯爵家を継ぐことになっているが、現・当主であるアルバート・ローズマリーが壮健なので、レストを飛び越えて二人の子供が継承することになるかもしれない。
「ああ、そういえばセレスティーヌもレストと結婚するんだったな! だったら、私達は卒業後もずっと一緒だな!」
ユーリについては、いまだに家出状態。父親であるカトレイア侯爵から結婚の許可は得ていない。
それでも、タイマンで父親のことをぶちのめしており、勝利と一緒に事実上の許可を勝ち取っていた。
「四人でレストさんのことを支えるということですね? とても素晴らしいことですわ」
セレスティーヌが微笑んで、湯船に豊かな乳房を浮かべる。
四人とも美しい裸身をさらしているが、胸のサイズだけならばセレスティーヌが頂点に君臨していた。
手入れをされた張りのある身体は、同性であっても溜息を吐くほどに美しい。
「そういえば……ラベンダー辺境伯家の御令嬢もまた、レスト様に好意を抱いているんですよね……」
プリムラが眉をハの字にして、難しそうな顔になる。
ウルラ・ラベンダーとは数えるほどしか面識がないが、それでも、行動の端々からレストに対する好意を感じた。
「ラベンダー辺境伯令嬢……レストさんと会ったことはさほどないはずですが、いつ、彼のことを好きになったのかしら……?」
「レスト様の権力や財産が目当てということもないですよね。領地が離れていますし、ラベンダー辺境伯家は名家の中の名家ですし……」
セレスティーヌとプリムラが顔を見合わせ、細い首を傾げる。
ウルラがレストを好きになるような切っ掛けはなかったはず。精霊眼のことを知らない四人としては、不思議に思うばかりである。
「ラベンダー辺境伯家にはウルラ様しか子供がいなかったはず……まさか、あの子も嫁いでくることはないですよね……?」
「「…………」」
プリムラの言葉に、ヴィオラとセレスティーヌが沈黙を返す。
普通に考えたら有り得ないことだが、不思議とレストであれば無くはないかと思えてしまったのだ。
「……まあ、良いわ。レストにとって役に立つ家の令嬢なら」
政治的価値のない、あるいは能力の足りない女性を妻として押しつけられるのは困るが、有益な女性であれば受け入れるべき。それもまた貴族としての在り方の一つだ。
「どうせ、お母様が愛人を付けようとするもの……今更、独占欲を出しても仕方がないわね」
「……せめて、妻は五人までで済むように頑張りましょう。私達が」
「そうですわね……」
ヴィオラ、プリムラ、セレスティーヌの三人が秘かに淑女協定を結ぶ。
「フフフフ、楽しいなあ。レストもいれば良かったのにな!」
唯一、ユーリだけが暢気な顔でお湯をバシャバシャと蹴っていたのだった。
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