第280話 デートです?(セレスティーヌ編)④
サナダ・ショーコが所有していたという王都の屋敷には、彼女が生前に描いたと思しき日本の風景画しかなかった。
「どうやら、部屋の中もどこかの町を描いた絵しかないようですわ」
「そうみたいだね……ちなみに、この絵には価値はあるのかな?」
「綺麗に描かれていますし、どこかもわからない幻想的な町を描いたこれらを欲しがる人間もいるでしょう……王太后陛下にこのような絵心があるとは思いませんでしたわ」
セレスティーヌが遠い目をしつつ、柔らかなタッチで描かれた風景画を見つめる。
「私にとって、王太后陛下とは超然としていて恐ろしいばかりの人でした。何を考えているのかわからない。常に値踏みをされるような目で見つめられるのは、本当に落ち着かなかったです……」
「……そうか」
心象世界で真田翔子と会ったレストとしては信じがたいが、王太后とはそういう人間であったらしい。
恨みつらみに取りつかれていたのだから、もはや別人である。
「この屋敷はどうなるのかな? ここも俺の物になるのか?」
「いえ。こちらはローデル殿下の遺産というわけではないので、レストさんとは関係がありません。所有者も相続人もいないので、国有財産ということになりますわ」
「そうか……もしも屋敷を取り壊すのであれば、絵だけでも買い取らせてもらえないかな?」
翔子の遺産が無惨にも捨てられるのは、少しだけ悲しい。
懐郷の心が薄いレストにとっても、日本の景色を描いた絵画が失われるのは惜しかった。
「わかりました。最終判断は王家がすることなので確約はできませんが、そのようにさせていただきます」
「ありがとう、よろしく頼むよ」
一通り、屋敷の中を見て回り……レストとセレスティーヌはそこを後にしようとする。
しかし、玄関の扉をくぐろうとする直前。ふと、セレスティーヌが足を止めた。
「あ……」
「どうした?」
「いえ、そちらの壁に違和感がありまして……」
セレスティーヌが玄関横の壁を指さした。
パッと見て違和感はなかったのだが……注意深く観察してみると、壁の一部に線が入っていることに気がついた。
古びて黄ばんだ壁紙に、手のひらほどの大きさの四角形のラインが刻まれている。
「確かに、何かありそうだな。特に魔力は感じないけど……?」
「公爵家の屋敷にも同じような物があるのです。もちろん、もっと上手く隠していますけど」
セレスティーヌが壁に刻まれた四角形に触れる。
「魔力を使わない仕掛け。魔術師に見抜くことができない隠し扉ですよ」
四角形を押すと、壁の一部が開いた。まるで忍者屋敷の回転扉のように。
もしも魔法を使った仕掛けであれば、レストだったら見抜くことができただろう。
魔力に頼っているからこそ、気がつくことができない仕掛け……完全な盲点である。
「隠し扉の先は……階段だな。地下に続いている」
【気配察知】の魔法で探ってみるが、特に妖しい気配は見られない。
レストがセレスティーヌの顔を窺うと、小さく首肯した。
「レストさんさえ宜しければ、調べてみたいと思います。構わないでしょうか?」
「むしろ、ここまできて『今日は帰ろう』って言われた方が気になるよ。降りてみよう」
レストは魔法で明かりを点けて、暗い階段を下りていった。
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