第281話 デートです?(セレスティーヌ編)⑤

 長い階段を下りると、そこには驚くほど広く大きな部屋があった。

 まるでゲームのダンジョンのような場所。おまけに、ボス部屋のような雰囲気。

 そして……その雰囲気を肯定するかのように、身長二メートルを超える巨人の姿があった。


「レストさん、これは……」


「セレスティーヌ、下がれ」


 レストはセレスティーヌを背中に庇って、前に出た。

 身構えるが、視線の先にいる巨体は動かない。

 よくよく観察すると、それは人でも魔物でもない。鉄の塊の人型だった。


「ゴーレム……」


 それは魔法で作られたロボット……ゴーレムだった。

 錬金術という高度な魔術によって生み出された物で、雑用や戦闘などに使用される。

 製作方法は非常に専門的なもので、ある種の機密事項。そのため、一部の人間しか知らないものである。


『…………』


 ゴーレムは動くことなく、沈黙している。

 壊れているのかと【気配察知】を発動させるが、微弱であるが魔力は感じられた。


「明らかに戦闘用のゴーレムですわ。近づいたら襲ってくるタイプの防衛型ゴーレムかと思います」


 セレスティーヌが後ろから補足する。


「ゴーレムには様々な種類がいますが、掃除などの単純作業をするもので大金貨百枚、戦闘用で大金貨千枚以上の製作費用がかかります。人間の兵士を雇う方がずっと効率がよいので、あまり使われてはいませんね」


「なるほど。確かに、ローデルと王太后派閥との戦争でも、ゴーレムは使われていなかったな」


 大金貨千枚……日本円で十億円も使ってゴーレムを作るよりも、その金で兵士を千人雇用した方がコストパフォーマンスが良いというわけである。


「ちなみに、あのゴーレムも大金貨千枚もするのかな?」


「……アレは見るからに高性能な物ですし、下手をするとその十倍はするかもしれませんわ」


「…………」


 大金貨一万枚。百億円。

 動く金塊がそこに立っていた。


「どうされますか、レストさん」


「まあ、倒すよ。アイツが何を守っているのか気になるからね」


 部屋は暗く、全体像はハッキリとしない。

 だが、わざわざゴーレムを設置しているのだから、ここに守るべき価値のある何かがあるのだろう。


「巻き込まれないように下がっていてくれ」


「どうか、お気をつけて」


 レストはゆっくりとゴーレムに近づいていった。

 すると、それまで木偶人形のように立ち尽くしていただけのゴーレムが首を巡らせ、レストに顔を向けてくる。


「お、動いた」


「オオオオオオオオオオッ!」


 うなり声をあげながら、ゴーレムが拳を振り上げた。

 鉄塊のような拳をレストめがけて、叩きつけてくる。


「オオッ!」


「【土壁】!」


 レストが生み出した壁が拳を阻むが、一撃で大きなヒビが入る。

 続いて放たれたニ撃目の打撃によって、粉々に粉砕された。


「【風刃】!」


 ゴーレムの足下に向けて風の刃を放つ。

 狙い澄ました一撃が膝の部分に命中するが、あっさりと弾かれてしまった。


「オオオオオオオオオオオッ!」


「攻撃力も防御力も外見通りか……なるほどね」


 考えても見れば、巨大な鉄の塊が動いているだけでも十分に驚異だ。

 重機が突っ込んできているのと変わらない。


「まあ、それはそれでやり方はあるけどな」


「オオオオオオオオオオオッ!」


 レストが後方に跳ぶと、ゴーレムが追撃を仕掛けてくる。


「【泥弾】」


 しかし、レストはゴーレムの足下めがけて魔法を放つ。

 泥の塊に足を取られて、ゴーレムがバランスを崩す。


「【風球】!」


 そして、十数発の風の球をゴーレムの顔面と胴体にぶつける。

 ダメ押しを受けたゴーレムが仰向けに転倒した。


「オオオッ!」


「【土縛】!」


 そして、その状態で土のロープを出現させてゴーレムを拘束する。

 ゴーレムはジタバタともがいたが、レストはひたすら魔力を土に注いで拘束を強化した。

 持久戦であれば、無限の魔力を持っているレストに分がある。


「オオ……」


 しばし暴れていたゴーレムはやがて、力つきたかのように動かなくなった。

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