第254話 入れ食い状態です

「終わったか……思ったよりも被害が出てしまったな」


 シーサーペントを討伐した。

 空を飛んだまま下を見やると、真珠の養殖場が半壊してしまっていた。

 漁村の方には被害が少ない。

 事前に守りの結界を村に張っておいたため、レストが使った【嵐産神】による被害もせいぜい突風程度まで抑えられていた。


「レストさん、御無事ですか?」


「貴族様……終わったんですかい?」


 下から声をかけてきたのはセレスティーヌ・クロッカス、そして漁村の村人が数人いた。

 レストは下に降りて、彼らに声をかける。


「ああ、終わった。シーサーペントは倒すことができたよ」


「そうですか……それは良かったです」


 セレスティーヌが安堵の溜息を吐く。

 一応は魔術師であるセレスティーヌもまた、いざとなれば飛び込むべく近くの林に隠れて待機していた。

 戦闘に不慣れな彼女の手を借りることなく済んで、何よりである。


「それと……すまない。養殖場があんなことになってしまった」


 レストが村人の方に向き直り、謝罪する。


「損害はこちらで補填させてもらう。どうか許してくれ」


「いやいや、貴族様。助けてもらったのはこの村です。謝らんでください」


 村人の代表が慌てた様子で両手を振った。

 村人の手には大きな木桶が抱えられており、そこには海水と一緒に何かが入られられている。


「貝はこの通り、無事ですからね。どうせまだ真珠の養殖は軌道に乗っていなかったんです。すぐに取り返せますよ」


 レストが養殖場を囮に使うにあたって、村人達はそこにいた貝を回収していた。

 施設は半壊してしまったが、資金と時間さえあれば修理することはできるだろう。


「修理費用でしたら、シーサーペントを売れば良いかもしれませんわ」


 セレスティーヌが海に浮かんでいる海竜の死骸を指差した。

 腹が空気によって爆発して真っ二つになったシーサーペント……血と臓物を撒き散らした死骸がプカプカと波に漂っている。


「シーサーペントは一応は亜竜ですし、鱗や肉、すでに流れてしまっていますが血液だって高値で売れます。回収して商人に売りましょう」


「ああ、それが良いな」


 レストは魔法を使ってシーサーペントを引っ張り寄せる。ついでに魔法を使って氷漬けにしておき、腐敗しないようにしておいた。


「これで良し」


「買取はこちらで手配しておきますわ。よろしいですよね?」


「もちろんだ。よろしく頼むよ」


 本当に痒い所に手が届く。

 セレスティーヌがいてくれるおかげで、色々と助かっていた。


(セレスティーヌは俺の奥さん候補らしいけど……彼女がいてくれたら、財産の管理とかすごい助かるんだろうな……)


 ヴィオラとプリムラもいるのだが……レストはローズマリー侯爵家の跡取りであり、おまけにクローバー伯爵家の当主。

 管理すべき財産や事務的な仕事も大きく膨らんでいるため、セレスティーヌのようなできる女がいてくれると本当に助かる。


(何というか……そういう理由で結婚するのは申し訳ない気がするんだけど……)


 政略結婚なのだから、仕方がないことなのだろうか。

 日本人として感性が抜けていないレストとしては、悩ましいところである。


「シーサーペントの血液や内臓は薬の材料になるそうですよ。半分くらいは流れてしまいましたけど」


「仕方がないこととはいえ、もったいないことをしたなあ。まあ、手段を選んでいられる状況じゃなかったけど……?」


「ガアッ!」


「ガアッ! ガアッ!」


「あ……」


 すると……血の匂いに誘われたのだろうか。

 沖の方から養殖場の傍に、一角鮫が群れでやってきていた。

 一角鮫はレストが作った逃亡防止の山に阻まれ、ガアガアと低い声で喚いている。


「……多少は損害が補填することができそうだな」


 流れてしまった血液を補うことができるかわからないが、美味しい鮫料理が食べられそうである。

 レストは集まってきた一角鮫を狩るべく、魔法を放って攻撃した。

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