第253話 海竜狩り
「ギャアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオッ!」
月夜の下で海の暴君……シーサーペントが吼えて、レストめがけて襲いかかってくる。
鮫よりも巨大で獰猛な牙を使って、レストの身体を噛み砕こうとしてきた。
「怖いな……だけど、どうしてだろう」
レストが空中で攻撃を回避する。
空からシーサーペントを見下ろしつつ、皮肉そうに唇を吊り上げた。
「怖いけれど、恐ろしくはない……勝てないとか逃げたいとかいう感情が、これっぽっちも湧いてこないよ」
煽っているわけではない。素直な本音である。
シーサーペントという巨大な魔物を相手取りながら、レストの胸は恐怖よりも余裕や落ち着きが勝ってしまっている。
やはり大切なのは経験である。魔獣サブノックにエルダー・ワーム。多くの敵との激闘を繰り返したことにより、レストも流石に慣れてきた。
シーサーペントはかなり強力な魔物であるとわかっているが……それでも、勝てないとは思わなかった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
シーサーペントはレストに向かって噛みつこうとしたり、尻尾を叩きつけてきたりする。
レストはそれを魔法でいなし、空中飛行で華麗に回避する。
シーサーペントがこれまで以上に攻撃的なのは尻尾を何度も撃たれてキレてしまったのか、あるいは窮鼠猫を嚙むというやつなのかもしれない。
魔法で作った土の山で逃げ道を塞がれたことで、もはや戦うしかないと考えたのか。
「どっちにしても、破れかぶれだ。冷静さを失った攻撃を避けるのは簡単だな」
などとつぶやきながら空中を舞っているレストであったが……別に余裕綽々で遊んでいるわけではない。
こうして空中を飛びながらも、シーサーペントを倒すための準備を進めていた。
「そろそろ、十分に溜まったかな?」
レストの手には小さな結界があった。
結界の中には大量の魔法が詰め込まれており、極限まで圧縮されていた。
「前は火球を圧縮することで爆発を起こしたけど……今回は違うぞ」
前回のように大爆発をさせてしまえば、この養殖場どころか村まで被害が出てしまう。炎は使えない。
「【風球】」
今回、結界の中に溜め込んで圧縮させているのは風の初球魔法である。
シーサーペントの攻撃を回避しながら何十もの【風球】を発動させており、すでに結界の中には十分な力が宿っている。
「あとはこれを……」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ああ、都合が良いな」
シーサーペントが大きな口を開けて噛みついてくる。
レストはすれ違いざま、結界に詰め込んだ風の魔法を口に中に放り込む。
「よし」
シーサーペントが結界を呑み込んだのを確認して、レストは勢いよく高度を上げた。
浜辺の方に視線を向けると……すでにそこにいた村人は退避している。
シーサーペントが罠にかかったのを見計らって合図を送り、彼らには逃げるように伝えていた。
「終わりだ……「【
シーサーペントの体内で結界が解除され、閉じこめられた魔法が解放された。
「ギュウウウウウウウウウウウウウウウッ!?」
数十倍、数百倍に膨れ上がった大気がシーサーペントの胃を内側から突き上げ……そのまま、空気を入れ過ぎた風船のように破裂させる。
膨張した空気は胃を破壊してもなお留まることなく、そのままシーサーペントの身体を内部から喰い破り……。
「ウワッ……!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?」
そして……血液と臓物を撒き散らし、その巨体が真っ二つに弾けた。
シーサーペントが破裂すると同時に体内の風が一気に外に飛び出し、四方八方に広がっていく。
まるで嵐のような突風がレストや周囲を襲い、木々や建物を大きく揺らした。
「…………終わったか」
だが……それだけである。
魔法を体内に打ち込まれたシーサーペントはともかく、レストや周囲への被害は軽い。
前回の経験から調整して魔法を詰め込んだのが功を奏したようである。
「ギュ、イ……」
真っ二つに千切れたシーサーペントは海に横たわって小さく鳴くが……やがて、絶命していった。
想像していた以上にあっさりとした幕切れである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます