第250話 鮫をプレゼントします
レストは魔物の探索中に倒した鮫を三匹、魔法で浮かせて漁村まで運んだ。
昨日の今日で漁をしていなかった漁村の住民であったが……レストが鮫を浜に置くと、集まってきて騒ぎ出す。
「おお! こりゃあ、ええフカじゃあ!」
「美味いツケアゲができるぞい!」
「今晩も宴じゃあ!」
レストが三匹ほどの鮫を持って帰ると、漁村の村人達が喝采で出迎えてくれた。
浜に並べた鮫の周りで、村人達がまるで踊るようにして喜んでいる。
「おお! 貴族様じゃあ!」
「たまたま見つけたから倒したんだ。好きなように食べてくれ」
「貴族様……魔物を追い払い、怪我を治してくれて、おまけにこんなどえらいもんまで……」
「神様みたいな御方じゃ……ありがたや、ありがたや……」
「……拝むのは流石にやめてもらえないかな? いくらなんでも、居心地悪いから」
膝をついて両手を合わせる村人に、レストも引いてしまった。
この村にやってきてから評価が爆上がりである。
報酬は夕食と酒くらいしかもらってないのだが、手放しで感謝をされるのは悪い気がしない。
「ところで……この鮫は食べられるのか?」
「もちろんじゃよ。頭は無いが、これはツノサメじゃろう? ツケアゲの材料になるわい」
「ツケアゲ……?」
知らぬ料理名である。
どんな料理か訊ねると、年配の村人が嬉々として説明をしてくれる。
「コレの切り身をすりつぶして細かくして、同じように擦った芋を練り込ませた食べ物じゃよ。余っている野菜の端材を入れたりもするのう」
「サナダ夫人も好物でなあ、よく油で揚げたツケアゲを肴にして酒を飲んでいたわい」
「ワシらは貴重な油を贅沢に使えぬから、火であぶって食ったり、鍋で煮込んだりするくらいじゃがな」
「へえ……やっぱり、カマボコに似た食べ物なのか……」
おそらく、この食べ物も王太后が広めたのだろう。
もしかすると、コレも前世で好物だったのかもしれない。
「昼間のうちに作っておいて、後で旅館までお持ちしますじゃ」
「ああ、よろしく頼む」
「よし! 痛む前に解体するぞ! 皆の者、かかれい!」
村人が刃物を持ってきて、こぞって鮫の解体を始める。
慣れた手つきで内臓を取り出し、ブロック状に切り分けていく。
「おお……」
何だろう……凄惨な光景だというのに、不思議と見応えがあって面白い。
見たことはないのだが、マグロの解体ショーというのはこういう感じなのかもしれない。
「ああ、レストさん。戻られたのですね」
「セレスティーヌ嬢」
思わず見入っていると、セレスティーヌが話しかけてきた。背後には護衛の部下の姿もある。
「…………!」
セレスティーヌは解体されている鮫の姿にギョッと目を見張ったものの、鉄の令嬢らしくすぐに表情を戻す。
「ちょっと、お話がありまして……」
「ああ、移動しようか」
レストはともかくとして、この光景はセレスティーヌにとっては辛い物だろう。
二人は並んで浜辺から旅館の方へと歩いていく。
「先ほど、食料の手配をしておきました。まとまった量なので時間はかかりそうですが、一週間もあれば届くかと」
「一週間か……まあ、たぶん大丈夫かな?」
この村の備蓄がどれくらいあるかは知らないが、今日の鮫だってある。
おそらく、餓死者が出るまで困窮することはあるまい。
「それと……この土地を治めている領主にそれとなく魔物の被害のことを知らせておきました。クロッカス公爵家の名前で問い合わせておいたので、近々、何らかの応答があると思います」
「そうか……まあ、あまり期待はしないでおこうかな」
領主は村人の陳情を受けながら、何もせずに放置していた。
ましてや、レストですら手を焼くような魔物が相手なのだ。仮に領主が動いたとしても何ができるとは思えない。
「ありがとう、色々と助かるよ」
「いえ、滅相もありません。それで……魔物の方はどうでしたか?」
「見つからなかったね……探すだけでも骨が折れそうだよ」
「そうですか……海の中のことですし、仕方がありませんね」
「ああ……だけど、一つ思いついたことがある」
レストの脳裏に一角鮫を倒したときの光景が浮かんでくる。
海に広がった血。そこに群がるようにして、大量の一角鮫が集まってきた。
「今夜あたり、試してみたいことがあるんだ。付き合ってもらっても構わないかな?」
「もちろんです。私にできることがあれば、何なりと」
セレスティーヌがたおやかな笑みを浮かべて、胸に手を当てる。
本当に頼もしい。
レストは深く頷いて、ちょっとした思いつきについて話して聞かせた。
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