第245話 漁師を助けます
激しい波に揺れる船。漁師達の悲鳴がいくつも重なっている。
レストが海に飛んでいくと……浮かんでいるいくつかの漁船の下を、大きな影が悠々と泳いでいるのが見えた。
大きさは少なくとも二十メートル。クジラと遜色ないサイズであり、影だけで全体像はわからないが……細長くて蛇のような姿をしていると思われる。
「これが海の魔物……!」
「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!?」
海の中から魔物の一部が出てきた。
白い鱗、青緑色のヒレを生やした尻尾のような物が勢いよく海面を叩いて、大波を起こす。
激しい波によって漁船が左右に激しく揺らされる。
「あ……!」
「ひゃあああああああああああああああっ!」
「た、助けてくれええええええええええっ!」
波に耐えられなくなった漁船がひっくり返って、漁師の男達が海に落下してしまう。
魔物は漁師に襲いかかることこそなかったものの、海の下で大きな影が漁師を囲むようにしてグルグルと回って渦を起こす。
渦に巻き込まれた漁師が海の中に吸い込まれ、必死に這い出し、また吸い込まれ手を繰り返している。
「コイツ……もしかして、遊んでいるのか……!」
上からそんな光景を目にしたレストが不快そうな顔になる。
魔物の動きは魚を食べているというふうではなく、漁師を溺れさせて弄んでいるように見えた。
翻弄しているというか、おちょくっているというか……まるで子供がアリを踏みつぶして遊んでいるような、そんな無邪気な悪意が感じられる。
「【風操】!」
とりあえず、溺れている漁師の救出が先である。
レストは風を操って波に弄ばれている漁師を掬い上げ、浜に運んだ。
船ごと持ち上げることができたら良いのだが……この魔法にはそこまでの出力はない。
「お前らのことも運ばせてもらうぞ!」
「ウオッ!?」
船にしがみついている漁師も拾って、浜に運んだ。
これで漁師達を全員、救出することができた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
すると、魔物が海から顔を出した。
尻尾と同じく白い鱗に覆われた顔の一部、ギョロリとした目が無人の漁船に向けられる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
魔物が怒ったような声を発する。
そして、まるで鬱憤を晴らすかのように浮かんでいる漁船の一つに噛みつき、バリボリと砕いた。
長い尾がバシバシと海面を叩いており、生じた波のせいで他の船まで沈みそうになっている。
「いい加減にしろよ……調子に乗ってるんじゃない!」
レストが魔法を撃つ。
【雷砲】……雷の一撃が海にいる魔物を撃ち抜いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
魔物が今度は苦悶の叫びが放たれる。
魔物は船を壊すのをやめて、海の中に戻っていった。
「あ……!」
影が見えなくなる。
【気配察知】の魔法によって探ると、どんどん海底まで潜っていってしまう。
やがて、魔物の気配が遠ざかっていった。
どうやら、逃げてしまったようである。
「逃がしたか……」
【雷砲】に怯んでいたようだが、大きなダメージを受けた様子はなかった。
なかなかタフな魔物である。
大きさもかなり大きかった。おそらく、二十メートル以上はあっただろう。
「細長くて、クジラというより蛇に近かったな……それに鱗があったということは、哺乳類じゃなくて魚の仲間か……?」
魔物が消えていった海を睨みつけるが、すでにそこに影はない。
あの魔物は漁師を使って遊んでいた。甚振って、弄んでいるようにレストには見えた。
今回の襲撃による死者はいなかったが……あの調子で襲われていたら、いつ死人が出てもおかしくはなかった。
そうでなくとも、船が壊されたら死活問題だ。村の人々の生活が危ぶまれる。
「このまま、どこか別の土地に行ってくれるのならば良いけど……そうでないのなら、討伐する必要があるな」
レストは海を見下ろしながら、そうつぶやいたのであった。
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