第233話 俺をウッピーと呼ばないで

『なるほどねー。ウッピーはローちゃんの遺産を継いで、あの土地を継承したわけね。それでアタシの別荘を見つけて調べに来たってこと』


「……そういうことだ」


 セーラー服の胸元に押されて……否、交渉のための話術として情報を明かしたレストに、翔子は「うーん」と少しだけ悲しそうな顔をする。


『そっか、そっか……やっぱり、ローちゃんは死んじゃったか。悪いことしちゃったなー』


「……それだけか。他に言いたいことはないのか?」


 レストがローデルを殺害したことについても、翔子には話している。

 あえて情報を出して反応を調べようとしたのだが……可愛がっていたという孫が殺されたというのに、レストに対して怒りや憎しみをぶつけてくる様子はない。


『あの子が死んじゃったのは、アタシというかフレデリカのせいだからね。人を恨む筋合いはないって』


「……そうか」


 代わりに、レストがわずかに怒りを表情に出す。

 憎悪がないというのならば、反対に申し訳なさはないのだろうか。

 彼女が本当に王太后であるというのなら……彼女が甘やかさなければ、ローデルは道を踏み外さなかった。


『ゴメンね。アタシはあくまでも前世の人格を元にしたザンリューシネンだからさ。あんまり、フレデリカの感情とかないんだよね。ローちゃんのことは知っているけど……ドラマとか映画の登場人物みたいな感じかな?』


「……当事者としての感情はないってことか?」


『そういうことかなー?』


 翔子がベンチから立ち上がる。

 イチゴミルクのパックを大きく振りかぶって投げると、少し離れた場所にあるゴミ箱の中に入った。


『ウッピーが話してくれたから、アタシも話すけどさ。アタシは事故で死んじゃったんだよね』


「事故……」


『そうそう。それで、気がついたらこの世界に生まれ変わってた系』


 翔子がベンチに座り直して、脚を組んだ。


『この田舎の町で生まれて、育って……もうじき、都会の大学に通うことができるはずだったのにね。それなのに……大人になれずに死んじゃった。まだセックスだってしたことないのにねー』


「…………女子がセックスとか言うな」


『その発言は男女差別系だけどねー。女の子だってスケベなことに興味あるっての』


 嫌そうな顔を擦るレストに、翔子が「イーッ!」と歯を見せて怒った真似をした。


『そんでもって、この世界に転生してたのよ。貴族レージョーとしてね』


「…………」


『新しい家族は大事にしてくれたわ。パパもママも良い人だったし、弟は可愛かったし、イケメンで優しい婚約者だっていたのよ。おまけにさ……転生特典のチートまであった系なのよねー』


「転生特典……チート……」


『そうそう。『スクルドの瞳』って言って、未来を視ることができるんだよね。すごくない?』


 翔子が「にへへへ」と笑って、あっさりとその情報を開示する。

 やはり転生チートを持っていたのか。その内容は未来予知だったらしい。


「……ちなみに、『魅了』の力とか持ってなかったのか?」


『あ、それ疑っちゃう系なんだ。確かに、アタシは男の子には超モテたけどさ……それはアタシの実力だっての。変な力は使ってないわよ』


「……そうだったのか」


『そうよ。アイツにも……ガスコインって奴にも疑われたけどね』


「ガスコイン……レオナルド・ガスコインか」


 賢人議会の議長である人物だ。

 王太后との関わりがあったとは初耳である。


『あの人の話だとさ、この世界にはいっぱい転生者がいる系なんだよね。七十八人くらい』


「えらく、具体的な数字だな……」


『アタシも思った……何でもさ、転生者の数は七十八人。一人死んだら一人新しく生まれてくるっぽいのよ。転生特典も引き継がれるんだって』


「…………」


 七十八。それは転生者の人数であると同時に、転生特典のチートの数なのかもしれない。

 翔子は『スクルドの瞳』という未来予知の力を持っており、そして……レストは無限の魔力、『ウロボロスの円環』というらしき力を持っている。


『転生特典は一人につき一つらしいわよ。だから、転生者も七十八っぽいわねー。賢人議会の幹部連中はみんな転生者なんだってさ』


「そうなのか……じゃあ、やっぱりガスコインも転生者だったんだな」


『うん。まあ、どーでもいい話だけどね。アタシにとっては』


 翔子がポケットに手を入れて、棒付きのキャンディを取り出した。

 包装を解いて口に入れて、チュパチュパと音を鳴らして舐める。


『話、戻すわね。そんなわけでアタシはこの世界に転生したんだけどさ……忘れちゃってたんだよね。世の中が超理不尽だってことに』


「…………」


『前世では大人になれず、夢も叶わずに死んじゃったのに。親孝行だってできなかったのに。この世界は別だとか勘違いしちゃった系なのよ。いや、ホントに馬鹿だったわ』


 これまで穏やかに話していたはずの翔子が、唐突に険しい表情になる。


『だから……奪われちゃったのよ。当時の王さまに無理やりに奥さんにされて、逆らった家族や婚約者は殺されちゃったわけ』

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