第231話 王太后の秘密を暴きました

 王太后の別荘。書斎の机の引き出しには、男性同士がくんずほぐれつやっている絵が大量に収められていた。

 日本ではBL、あるいは『やおい』などと呼ばれていたジャンルのイラストである。


「こ、この本は……どうして、王太后陛下がこんな絵を……」


 セレスティーヌが顔を真っ赤にしている。

 理想の淑女。どんな時も穏やかな笑みを崩すことのないはずのセレスティーヌも、不意打ちで見せられたBL本には赤面してしまうようだ。


(ちょっと可愛い……じゃなくて)


「えっと……普通に考えて、これは王太后陛下の趣味なんだろうな……」


 ここに住んでいたのが王太后だけならば、間違いないことである。

 机の上には黄ばんだ未使用の紙とペンも置かれていた。もしかすると、王太后本人が描いたものだというのか。


「あ?」


 手書きのイラストを直視しないようにざっと確認していくと……そこに見知った人間とよく似た男を発見する。


「これは……もしかして、アンドリュー殿下?」


 男同士が絡み合っている絵の中には、アンドリュー・アイウッドとよく似た男の姿があった。

 もちろん、似ているだけなのだろうが……相手の男もアンドリューの側近のユースゴス・ベトラスに似ていた。


「そういう趣味を否定するつもりはないけど……知り合いに似た男達が絡み合っているのはあまり見たくないな……」


 BLは別に悪くない。好きなように愛でれば良いと思う。

 悪くはないが……それでも、知り合いは勘弁してもらいたい。似ているだけの他人であっても気分は良くなかった。


「……外で待っています」


 セレスティーヌもまた絵から目を逸らして、自分の二の腕を手で擦りながら部屋の外に出ていった。

 レストよりもアンドリューやユースゴスと親しくしているだけに、ショックも大きいようである。


「これらは……まあ、永久に仕舞っておくとして……もしかして、本当に何もないのか?」


 レストは引き出しをさらに引っ張ってみる。


「うん?」


 すると……何やら、引き出しの奥が引っかかる感触があった。


「何かあるのか……?」


 引き出しの奥に手を突っ込んで、引っかかっていた『それ』を取り出した。

 それは掌よりも少し大きいサイズの木箱だった。

 閉じられた箱に鍵穴はないが……代わりに、紙が貼ってあって封がされている。


「これは……!」


 そして……紙に書かれている文字を見て、レストは目を見開いた。

 その言語には覚えがあった。当たり前だ……前世で当たり前のように使っていた日本語だったのだから。

 別荘の入口にあった鍵のなぞなぞは内容はともかく、この世界の言語で書かれていたが……箱の紙にある文章は日本語。


(やはり、王太后は日本人だったのか……!)


 レストは確信を込めて心の中でつぶやきながら、その文章を読み上げる。


「『パンはパンでも食べられないパンは?』……はい?」


 それはあまりにも低レベルな問題だった。

 日本人だったら、ほとんどの人間が答えを知っている……別荘の入口にあった問題よりもかなりレベルが落ちている。


「フライパン……?」


 思わず、回答をつぶやいた……次の瞬間、異変が起こった。


「なっ……!」


 箱を閉じていた紙が自然に破れて、箱が開く。

 中から光が溢れ出し、レストの視界を真っ白に染めて……。


『不正解よ』


「へ……?」


 誰かの声が聞こえてきた。

 高い女性の声、聞き覚えのない声である。


『不正解よ。正解は……アタシのママが作った今朝のトーストでしたー』


「…………!?」


 目の前のベンチに女性が座っていた。

 ベンチの背後には木製の東屋があり、日差しや雨を避けられるようになっている。

 空は晴天。青空がどこまでも広がっていた。陽光を受けたアスファルトの黒い道路が前後に伸びており、少し離れた場所には海が見える。


「ここは……日本なのか?」


 見覚えはないが……そこは日本の景色。

 どこか田舎のバス停があり、ベンチにはセーラー服姿の女子高生が座っていたのである。






――――――――――

作品紹介


毒の王 ~最強の力に覚醒した俺は美姫たちを従え、発情ハーレムの主となる~

https://kakuyomu.jp/works/16816927862162440540


書籍3巻発売中。コミカライズ企画も進行中!!

ただいま連続更新中になります。ぜひとも読んでみてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る