第230話 王太后の秘密
「海か……すごいな。本当に」
レストは窓を開けて、ベランダに出た。
ベランダからは海を一望することができ、雄大な自然の光景が目に飛び込んでくる。
「王太后陛下は……海が好きだったのでしょうか?」
セレスティーヌが溜息交じりにつぶやいた。
その部屋は寝室だった。部屋には小さなテーブルとベッド、クローゼットが置かれているだけ。
美術品や宝石などの高価な品は何もない。
「何というか……イメージが変わるな……」
王太后はどこか得体の知れない、超然としたイメージがあった。
幾人もの有力な貴族を味方に付けて、暴君を玉座から引きずり下ろして。
そうやって国に貢献したかと思えば、孫であるローデルを甘やかして同じような暴君に育て上げた。
ちぐはぐで何がやりたいかわからない……怪物のような女性。
それがレストの中での王太后……フレデリカ・アイウッドという人間。
(だけど、この部屋は……どこか彼女の人間味が感じられるな……)
簡素な部屋。
テーブルの上に置かれているのは、有名な詩集と小さな花瓶。花瓶に入れられた花は枯れて崩れて何の花だったかわからない。
そして……窓から見える大海原。この部屋で、彼女は毎日のように海を眺める晩年を送っていたのだ。
(いったい、彼女は何を思ってここで余生を過ごしていたのだろう……)
「……この部屋には何もありませんね。隣の書斎を調べましょうか」
ベランダから海を見下ろしているレストに、セレスティーヌ声をかけてくる。
「王太后陛下のことを知りたいのであれば、書斎に日記か何かあるかもしれません」
「……そうだな」
レストは頷いて、踵を返した。
窓をしっかりと閉めてから部屋を出る。
廊下に出て、今度は寝室の隣にある書斎に入った。
「こっちは机と本棚しかないな。本棚にあるのは……」
「……詩集と花の図鑑、それと小説ばかりですね」
「ああ……」
機密文書的な物はもちろんとして、魔術書の類などもない。
本当に……趣味の本ばかりが本棚には並んでいる。
「……もしかして、この別荘には何も無いんじゃないか?」
特に秘密など何もなく、ただ余生を穏やかに過ごすための別荘だったのではないか。
そんな考えがレストの胸に生じる。
「そういえば……王太后陛下はこの別荘で死んだのかな?」
「……わかりません」
「え?」
「王太后陛下がどちらで亡くなられていたのか、わかっていないのです。療養のために王宮から離れていたそうなのですが……ある日、王宮にある寝室に遺体が安置されていたそうです。どなたかが運んできたようですが、誰なのかはわかっていないのです」
「…………」
これまた、奇妙な話である。
王太后にまつわる謎がまた一つ、深まったようだ。
「そうだとすれば……この別荘で亡くなった可能性はあるな。しかも、誰かと一緒に暮らしていたのかも……?」
いや……ベッドは一つ。二人が眠れるようなサイズではなかった。
もちろん、何者かがリビングや地下室で寝泊まりをしていた可能性はあるが。
「机の中に何かあるかもしれませんわ」
セレスティーヌが机の引き出しを調べる。
引き出しの中には何やら、紙の束が大量に入れられていた。
「それは?」
「これは、えっと…………キャアッ!」
「セレスティーヌ嬢!?」
セレスティーヌが突如として悲鳴を上げて、引き出しから取り出した紙の束を床に落とす。
淑女の仮面が敗れて、セレスティーヌは年相応の少女のように悲鳴を上げていた。
「いったい、何が書かれて…………ヒイッ!?」
レストは落とした紙の束を拾おうとして、手を止めた。
机の引き出しから出てきた紙束……そこには、恐るべき物が描かれていたのだ。
「これは……」
「は、はしたないです……」
レストとセレスティーヌが同時に引きつった声を上げる。
とうとう、暴かれた王太后の秘密……その正体は想像を絶するものだった。
「まさか……BL本だって……!」
出てきた紙束には……男性と男性が絡み合っているイラストが詳細に描かれていたのであった。
――――――――――
作品紹介
毒の王 ~最強の力に覚醒した俺は美姫たちを従え、発情ハーレムの主となる~
https://kakuyomu.jp/works/16816927862162440540
書籍3巻発売中。コミカライズ企画も進行中!!
ただいま連続更新中になります。
ぜひとも読んでみてください!
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