第229話 別荘の扉が開かれた
「開いた……どうして?」
セレスティーヌが驚いた様子で、開かれた扉を見つめる。
レストは安堵に肩をすくめて、セレスティーヌを振り返った。
「開いたぞ、入ろう」
そして、先導して別荘の中に入った。
セレスティーヌと従者が慌てて、後に続いてくる。
「レストさん、答え合わせをお願いできませんか?」
「ん?」
「どうして、あの問題の答えが『猫』になるのでしょう?」
扉に書かれていたなぞなぞの答えは『猫』だった。
「うーん……説明しても、わかるかなあ……」
レストはどう話したものか、考え込む。
この問題は日本人にしか解けないものだった。
問題を解く鍵は十二支……つまり、干支である。
(ネズミの頭、そして獅子……イノシシの尻尾。それが干支を意味している。そして、それに交われないというのは干支に入れなかった動物……つまり、猫だ)
猫がネズミに騙されたせいで干支に入れなかったという昔話があるが、それをモチーフにした問題なのだろう。
実際には、干支の動物は後からあてられたものであり、猫は無関係であるそうなのだが。
「昔読んだ本にあった伝承を元にしているみたいでね……本のタイトルは忘れてしまったし、説明は難しいかな?」
「そうですか……」
セレスティーヌは納得していないようだったが、それ以上は追求してこなかった。
空気の読める淑女に感謝である。
「それよりも、別荘の中を調べてみよう」
レストは話を変える意味も込めて、別荘内部の探索を開始する。
別荘は二階建てだった。さらに、地下に続く階段があった。
一階はリビングとトイレ、キッチン、シャワー室がある。
「お?」
「キャッ……!」
セレスティーヌが短い悲鳴を上げた。
リビングに入った途端、そこで蠢いている人影が目に入ったのだ。
「これは……ゴーレムなのか?」
白いツルツルの肌質をした人型の何か。
顔には目も鼻もなく、雑なマネキンのような物体がリビングで動いていた。
それは箒を手にしており、リビングの掃除をしているようである。
「ゴーレム……我が国では、許可のないゴーレムの所有は禁止されているはずですわ……」
レストの背中越しにゴーレムを見やり、セレスティーヌが言う。
ゴーレムをはじめとして、魔法で自律して動く魔法生物は一部の国では禁止されていた。
魔法生物を兵隊や暗殺者として利用する人間がいるからだ。
(使い捨てにできる心のない兵士……悪用しようと思えば、いくらでもできるからな)
また、過去に起こった事件では……死んだ人間の肉体をゾンビのように使役した人間もいた。
あるいは、死者の魂を人形に込めて生きながらえさせた人間も。
それらの魔法は生命をもてあそぶ行為であるとして、多くの人間に忌避されている。
「このゴーレムは王太后陛下が生きていた頃から動いているんだよな? 魔力の供給も無しに、どうやってこれまで動いていたんだ?」
「おそらく、体内に動力源が入っているのでしょう。魔物の魔力が込もった魔石でしょうか?」
「ゴーレム技術は学園の授業でも教えてくれないからな……まあ、禁製品だから当たり前だけど」
ゴーレムはリビングを掃除しているだけ。こちらに危害を加えてくる様子はなかった。
「……超高度な魔法技術が使われているゴーレムをお掃除ロボット扱いとはな。贅沢な使い方だな」
「お掃除……ろぼっとですか? それはいったい……?」
「ああ、すまない。何でもないんだ」
ロボットなんてこの世界の人間が知っているはずがない。
知っていたら、それは転生者だ。
(セレスティーヌ嬢は転生者ではないな! まあ、そうだろうけど!)
「リビングには何も無いな……そうなると、上かな?」
特殊な魔法で入れないようにしていたのだ。
この別荘には何かがあるはず。
「上に行ってみよう。地下は後だ」
レストは階段を上っていった
二階に上がると、そこには二つの部屋があった。
「こっちは書斎かな……?」
一方の扉を開くと、そこには木の机と本棚が並んだ部屋だった。
古い本独特のカビ臭さが鼻を突いてくる。
「こちらの部屋は……あ」
「どうかした……あ」
セレスティーヌがもう一方の部屋の扉を開けた。
レストも遅れて中を覗き込んで……そして、声を失う。
「綺麗……」
「…………」
その部屋には大きな窓があり、向こう側にベランダがあった。
部屋に入って、一目で心を奪われる。
その窓から見える外の景色に。
「海が……すごいな……」
窓から見えるのは一面の大海原。そして、青い空である。
その景色はあまりにも雄大であり、先ほどの岬からの景色に少しも負けていなかった。
――――――――――
作品紹介
毒の王 ~最強の力に覚醒した俺は美姫たちを従え、発情ハーレムの主となる~
https://kakuyomu.jp/works/16816927862162440540
書籍3巻発売中。コミカライズ企画も進行中!!
ただいま連続更新中になります。
ぜひとも読んでみてください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます