第221話 賢人議会の目的は……?

「ガスコイン卿……『天帝のガスコイン』と会ったのか。それはまた、珍しい経験をしたのう」


「信じてもらえるんですか?」


「嘘をついてどうなるという話でもあるまい。それに……彼が人の話を聞かない人物であることはワシも知っておるからのう」


 学園長――ヴェルロイド・ハーンが説明を始める。


「まず、ワシはガスコイン卿とそこまで面識があるわけではない。賢人議会に属してはいるが……ワシは『衛星サテライト』じゃからのう」


「サテライト……?」


「ウム、賢人議会には中核となる『惑星プラネット』と『衛星サテライト』の二つのメンバーがいる。ワシは後者であり、中核の者達との関わりは薄いのじゃ」


「なるほど……そうなんですか」


 同じ組織でも序列があるそうだ。

 国内最高の魔術師と謳われている学園長でさえ、世界最高の魔術結社である賢人議会においては中心近くには立てないとのことである。

 改めて、この世界の層の厚さを思い知らされた気分である。


「賢人議会の仕事、目的はいくつかある。君達にも馴染みが深いのは新しい魔法の認定、魔法名鑑の作成じゃな」


 賢人議会はこの世界に存在する魔法をまとめた『魔法名鑑』を作成しており、新しい魔法が開発された場合にはそこに記録される。

 新魔法を編み出すことは、魔術師にとって最高の名誉だ。

 魔法名鑑に名前が載れば、国からも高待遇で迎えられることだろう。


(新魔法として登録されるためには、その魔法の普遍性や再現性も問われる。俺の【星喰】や【炎産神】のように無限の魔力がなければ使えない魔法では、とても記載されることはない……)


「だが……実のところ、賢人議会にはそれらとは別に主たる目的がある。それは世界に調和をもたらすことじゃ」


 レストが考え込んでいるうちにも、学園長が話を続ける。


「賢人議会は戦争の調停などを行い、人間同士の争い事を止めるために行動している。先の内乱のような小さな戦いで出向いてくることはないが、国同士の戦争となれば、我らが停戦を呼びかけて動くことになる。実際、大陸各地の紛争地帯で今も同胞が動いておる」


「戦争の調停……」


 そういえば……ガスコインは【炎産神】を人間に対して撃つことを許さないと言っていた。

 話がつながったようである。やはりガスコインはあの大量破壊魔法が戦争で利用されるのを恐れていたのだ。


「ガスコイン卿は普段から、賢人議会の本部から動かない。あの御仁が動くとなれば、よほどのことに違いあるまい」


「…………」


「入学試験の面接でも思ったが……レスト君、君は本当に興味深い少年じゃな。あのガスコイン卿まで注目しているとは、恐れ入るわい」


「いえ……それほどでもないと思います……」


 注目されているというか、警戒されているというか。

 あまり嬉しくはない状況である。

 条件付きとはいえ……世界最高の魔術師に「処分する」とまで言われてしまったのだから。


「ガスコイン卿は厳格な方ではあるが、決して無体なことはせぬ。あの御方は人類の味方じゃからな。レスト君がいたずらに人の世に混乱をもたらすようなことをしなければ、決して敵対することはないはずじゃよ」


「世の中に混乱なんて……しませんよ、そんなこと」


 愚王子ローデルを叩いたり、魔獣サブノックを討伐したり……国に変化をもたらしているのは事実だが、混乱させるつもりはない。

 むしろ、様々な問題に巻き込まれている側の被害者だと思っている。


「とにかく……問題を起こさなければ良いということですよね? それなら、簡単です」


 ひとまず、安堵する。

 レストが闇堕ちするようなことがなければ、戦うことはないはずだ。

 もう会うこともない……はずである。


(だけど……何故だろうな)


 学園長の説明に胸を撫で下ろしながら……対照的に、背中を悪寒が撫でているのを感じた。


(レオナルド・ガスコイン……あの男とは、また会うことになる気がする。完全な直感だけど、トラブルを運んできそうな気が……)


「……ありがとうございました。失礼します」


「ウム。次は魔法について語り合おう。茶菓子を用意して待っているよ」


 レストは学園長に頭を下げて、部屋から退室したのであった。

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