第220話 学園長に会います

 王都に戻ってきたレストは久しぶりに王立学園を訪れた。

 久しぶりに登校する学園であったが……そこは以前よりも生徒がずっと減っており、閑散とした雰囲気になっている。


「随分と寂しくなっているな……何かあったのか?」


「何かって……君が原因じゃないか」


 呆れた様子で答えたのは、レストの学友であるモーリス・ルーイだった。

 教室で久しぶりに顔を合わせた友人が朗らかに挨拶をしてくる。


「みんな、サブノック平原の開拓に参加しているんだよ。立身出世のチャンスだからな……学業よりも優先なんじゃないかな?」


「ああ、なるほどな……確かに、俺が原因か」


 レストが苦笑いをした。

 レストはかつて、第二王子アンドリューの協力を得て、学園で平原開拓の参加者を募った。

 どれくらいの生徒が参加しているのかまでは把握していなかったが……どうやら、想像していたよりも開拓の参加者は多いらしい。


「この国は何十年も前から領土の拡大が止まっていて、貴族の人数も土地も頭打ちになっていたからね。ここにきて、空白の土地が大量に出てきたんだ。継ぐ家や土地がない次男坊・三男坊にとっては、かつてないチャンスだ。学業よりも優先させたくなるよ」


 王立学園は未来の人材育成のための機関である。

 生徒達がここに通っているのは、将来的に官職についたり領地を経営したりするためだ。

 土地や爵位を得るチャンスが他にあるのなら、そちらに目が向くのも仕方がない。


「今、学園で授業を受けているのは力不足を自覚している連中。そして、将来がすでに決まっている奴らだね」


「なるほど……ところで、モーリスはどうして学園に来ているんだ? お前も開拓に参加していたよな?」


「ああ、参加してるよ。だけど……僕は家業を継ぐ予定だからね。開拓に参加しているのはあくまでもアルバイト。休日だけしか参加していないんだ」


「ああ、そうなんだ」


「レストの方こそ、何をやってるんだい? 君は僕と違って忙しいはずだろう?」


「ちょっと用事があってね。学園長に会いに来たんだ」


 レストが学園にやってきたのは、先日のレオナルド・ガスコインとの遭遇について学園長に話を聞くためだ。

 学園長であるヴェルロイド・ハーンは賢人議会に所属している賢者であり、ガスコインとも面識があるはず。

 すでにローズマリー侯爵家の使用人を通じてアポイントメントを取っており、面会までの時間つぶしとして、教室の様子を見に来たのだ。


「ああ、そろそろ時間だ。それじゃあ、また」


「ああ、またね」


 モーリスと別れて、レストは学園長の部屋に向かった。

 以前よりも人が減った廊下を歩いて、学園長室へと移動する。

 学園長室の前には受付があり、秘書らしき女性が待機していた。


「すみません、レスト・クローバーです。学園長への面会をお願いできますか?」


「はい、クローバー伯爵様ですね。伺っております……少々お待ちくださいませ」


 秘書が部屋の中に消えていき、すぐに戻ってきた。


「入室の許可が出ました。中へどうぞ……」


「失礼します」


 レストが扉をくぐると……そこには長いヒゲを生やした老魔術師の姿があった。

 学園長であるヴェルロイド・ハーンが立派な机についており、穏やかな表情を向けてくる。


「やあ、レスト君。それとも……クローバー伯爵と呼んだ方が良いかね?」


「どちらでも結構ですよ、学園長先生。貴方の方がずっと立場が上ですからね」


 学園長は領地を持った貴族というわけではないのだが、公爵に相応する影響力を持った人間だ。

 その言葉は重く、王族であっても無下にはできない。


「ホッホッホ、そうだったかのう。さて……君と話をするのは入学試験の面接以来になるが、ワシに何か用かね?」


「実は……」


 レストがレオナルド・ガスコインについて、話を切り出した。

 学園長は黙って話を聞いていたが……やがて意外そうに目を見開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る