第219話 そして、入浴へ

「…………」


 レストは一足先に浴室に向かった。

 脱衣所で服を脱いで、タオルを片手に浴室の扉を開くと……ブワリと白い湯気が襲ってくる。

 どうやら、湯を沸かしてからそれほど時間は経っていないようだ。

 ヴィオラとプリムラがあらかじめ帰ることを伝えていたので、使用人が気を利かして準備していてくれたのだろう。


「風呂か……これも久しぶりだな」


 開拓村にも風呂はあったが……魔法で作った簡易的なものだった。

 足を伸ばしてゆっくりと入浴するのは久しぶりな気がする。


「とりあえず……身体を洗うか」


 レストはバスチェアに座り、湯で濡らしたタオルに石鹸を泡立たせて身体をぬぐう。

 この世界にも石鹸は存在するのだが、裕福な人間しか使用することができない高級品である。


(この石鹸……花の匂いがついていて、すごい上質だよな。あまり深くは考えてこなかったけど、もしかして転生者の知識が入ってるんじゃないか?)


 先日、レストはレオナルド・ガスコインという男と会った。

 ガスコインはレストのことを転生者と呼んできて、他にも転生者がいるのではないかと仄めかしてきた。

 自分以外にも転生者が存在している……改めて考えてみると、そこまで不思議なことでもなかった。

 トランプやチェスといったゲームがあり、この石鹸のような物があり……この世界にはあちこち、地球の面影が存在するではないか。


「お待たせ、レスト」


「お待たせいたしました」


 考え事をしていると、浴室の扉が開いてヴィオラとプリムラが現れた。

 二人は裸の上に湯着を纏っていて、限りなく裸に近い格好である。


「う……」


 決して、そこまで露出があるわけではない。

 水着などと比べると肌は出ていないのだが……それでも、身体のラインがクッキリと浮き上がっている。


(ふ、二人とも……胸とか大きくなっていないか?)


 レストは心の中で戦慄する。

 元から、二人は年齢の割にスタイルが良かった。

 しかし……ここにきて、主に胸部がさらなる成長を遂げていたのだ。


(二人とも十六歳だもんな……そりゃあ、まだまだ成長期か……)


「ああ、身体を洗っていたのね」


「お手伝いしましょうか?」


「いや……ちょうど終わったところだから大丈夫だ」


 レストはそそくさと身体を湯で流して、一足先に湯船に向かった。


「あら、残念ね。また洗ってあげようと思ったのに」


「残念です。レスト様の身体を洗うの、私好きなんですけど」


「勘弁してくれ……あまり誘うなよ」


 今さらのような気もするが……貴族社会において、婚前交渉は御法度である。

 レストとローズマリー姉妹も一緒に寝たり入浴したりはしているものの、まだ一線は越えていなかった。


(十代男子の性欲を舐めるなよ。いつまでも襲わずにいられる保証はないぞ……)


「ああ、そうね……結婚しちゃったら、遠慮しなくても良いんだけど……」


「学園を卒業するまでは我慢ですね。まあ、もうほとんど通っていませんけど」


 三人は一応、王立学園の学生ということになっている。

 内乱やら開拓やらのせいでほとんど授業に参加していないので、本当に名ばかりであるが。


「卒業したら、すぐに結婚式を挙げなくちゃね」


「楽しみですね、もうドレスの手配をしておきましょうか?」


「プリムラは本当に気が早いのね。サイズが変わっちゃったらどうするのよ」


「ああ、そうでした。太っちゃったらいけませんよね」


「…………」


 二人は楽しそうにそんな話をしながら、湯着を脱いで髪と身体を洗い始めた。

 張りのある豊満な身体つきをした姉妹が裸になり、全身泡まみれになっている。


 卒業したら結婚。

 いよいよ、婿という立場が現実味を帯びてきた。


(まあ、婚約者なんだから当然だよな……光栄ではあっても、不満は欠片もないよ……)


 湯船に浸かり、二人の裸身を後ろから眺めながら……レストは思う。


(改めて思うけど……こんな美少女がそろって俺の奥さんになるなんて、夢みたいな話だよな)


 十四歳の時に出会ってから三年弱。

 ヴィオラとプリムラはどんどん綺麗になっている。スタイルも良くなっている。


(きっと、これからも二人は美しくなっていくんだろうな……それを一番近くで見ていられるんだから、神様に感謝しないと)


「さて……身体を洗ったけれど……」


「また湯着を着るのは面倒ですね」


「もう、このまま入っちゃいましょう」


「はい、姉さんに賛成です」


「おおうっ!」


 二人が湯着を脱いで一糸まとわぬ姿のまま、レストがいる湯船に入ってきた。


「良いお湯ね、レスト」


「レスト様、お隣失礼しますね」


「う……ぐ……」


(ほ、本当に結婚するまで耐えられるのか……あと二年と少し、我慢できるのか……!?)


 レストは激しい劣情を抑えながら、自分が置かれている幸福な環境を神に感謝するのであった。

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